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箆柄暦『六月の沖縄』2024 宮古民謡・松原忠之

2024.05.31
  • インタビュー
箆柄暦『六月の沖縄』2024 宮古民謡・松原忠之

《Piratsuka Special Topics》

松原忠之
~師の宮古民謡への思いを受け継ぎ、歌を広めていく~

松原忠之は、今年32歳になる若手の宮古民謡歌手である。宮古諸島の伊良部島にルーツを持つ両親のもと、沖縄本島の浦添市で生まれ、8歳から宮古民謡の巨匠である故・国吉源次に師事し、歌三線を学んだ。十代後半からはヒップホップに熱中し、ラッパーとして活動していたが、27歳で民謡に復帰。3年前、師匠が世を去ったのとほぼ同時にデビューアルバムを全国リリースし、「国吉源次の後を継ぐホープが登場」と話題になった。

※民謡を始めたきっかけや師への思いなどを語った、前作リリース時のロングインタビューはこちら
https://www.piratsuka.com/article/4390/

その彼が、2024年5月に発表した2作目が『美(かー)ぎ宮古(みゃーく)ぬあやぐ~青い海ぬ如(にゃ)ん、太陽(てぃだ)ぬ如ん~』だ。今作では、前作に収録しきれなかった宮古民謡の名曲に加え、師への想いを込めた初の自作曲「我が先生(ばがしんしー)」も収録するなど、彼ならではのオリジナリティも感じさせる内容となっている。松原は「今回はだいぶ肩の力を抜いて歌えた」と、新作のレコーディングを振り返る。

「前作では、源次先生から習った節回しを崩さないことを一番に考えていましたが、そもそも先生自身の歌い方も年を追うごとに変わっていて、自分が習ったのは『その時期の源次先生の歌い方』なんですよね。今後は自分の歌も変化して、もっと自分の色が出てくる部分もあるかもしれないけど、歌の芯にあるのが『源次先生の宮古民謡』である限り、(歌い方が多少変化しても)それはそれでいいんじゃないかなと。むしろ歌だけにとどまらず、源次先生が『俺たちの島の歌はすごいんだ、ぜひ聴いてくれ』という確固たる自信を持って歌い続けてきた、その情熱や歌への愛も受け継いで、宮古民謡を広めていくことが大事なんじゃないかと思っています」

その言葉通り、朗々として張りのある歌声には堂々とした力強さと、歌への慈しみを感じさせる細やかさが共存し、宮古民謡独特の明るいメロディと言葉の響きの美しさを際立たせ、聴き手を歌の世界に引き込んでいく。中でも出色なのが、宮古島出身のシンガーソングライター・下地イサムが参加した新作民謡「家庭和合(きないわごう)」と、子守唄「ばんがむり」だ。2002年のデビュー以来、宮古島の言葉でオリジナル曲を歌ってきた下地は、松原にとって「小学生の頃から聴いてきた宮古の大スター」。一方で下地も一時期、国吉源次に民謡を習っていたことがあり、今回のオファーを快諾。松原の歌三線にギターで伴奏を付けたほか、「家庭和合」ではコーラスも担当した。松原はこの録音を通して「宮古民謡の新たな可能性」を感じたという。

「宮古民謡の中でも、三線が島に入ってくる前から歌われていた曲では、後から三線の伴奏をつけてるから、歌と三線が合っていないように感じることがあるんです。特に『ばんがむり』はそうで、三線と一緒に歌うのが難しいんですが、今回はイサムさんのギター伴奏に優しく包み込んでもらう感じで歌えて、それがとっても良くて。やっぱり宮古民謡で一番大事にしなきゃいけないのは歌だな、と、改めて思ったし、その歌の良さを伝えるためにも、今後も洋楽器と一緒に歌う機会を作っていけたらと思います」

また、今後は師から習った民謡を歌い継ぐだけでなく、「民謡歌手として、オリジナル民謡の創作にも取り組みたい」と考えている。

「民謡って、その時代の生活や風景を歌にしたものだと思うんです。たとえば『伊良部トーガニ』を聴くと、その歌ができた頃は伊良部大橋がなかったことがわかりますよね(注:『伊良部トーガニ』は、宮古島と伊良部島に離れて暮らす恋人達の思いを歌った曲)。だとしたら伊良部大橋ができた今は、伊良部大橋にスポットを当てた歌が作れないかな、と。『この曲を聴けば、伊良部大橋ができたことがわかるような歌』というか。それをやらないと、今の時代のようすが後世に伝わらないし、ただ昔に作られた歌を歌い継いでいくだけでは、民謡というものが途絶えてしまう。今の生活を写しとった歌を作り、民謡という形で残していく。これは『民謡歌手』という肩書を持つ人がやらなければならないことだと思います」

そんな彼が初めて手がけたオリジナル曲「我が先生」は、タイトル通り、師匠・国吉源次への尊敬と感謝の念を込めた一曲だ。ただ、決して「国吉源次の歌が一番だ、という歌ではない」という。

「自分は源次先生の歌が最高だと思ってますが、他の人にもそれぞれ師匠がいて、みんな『自分の師匠が一番だ』と考えてるわけで、それでいいと思うんです。だからこの曲は、民謡を学ぶすべての人に向けて、『自分の師匠が一番だ、と思って学べばいいんだよ』って気持ちで書きました」

なお、今作で共演した下地とは、2024年7月に那覇と東京でジョイントライブ「ミヤコ、みやこ、宮古!」を開催する予定だ。ステージでは松原の宮古民謡、下地のオリジナル曲、さらには二人の共演と、宮古尽くしの楽曲がたっぷりと楽しめる。この機会にぜひ、CDやライブで若き実力派の宮古民謡に触れ、その魅力を堪能していただければと思う。(取材&文・高橋久未子/撮影・喜瀨守昭)

松原忠之(まつばら・ただゆき)

1992年、浦添市生まれ。8歳から国吉源次に師事し、宮古民謡を学ぶ。コンクールでは入門から1年で新人賞、2年で優秀賞、3年で最高賞、中学3年で教師免許を取得。2020年から本格的に民謡のライブ活動を開始。現在は兄と共に家業の鳶工事会社を営みながら、県内を中心にライブ活動を行っている。

[CD Info]
『美ぎ宮古ぬあやぐ~青い海ぬ如ん、太陽ぬ如ん~』
リスペクトレコード
RES-348
2024/5/29発売
3,300円

我が先生/宮古ぬあやぐ/かにくばた/家庭和合/米ぬあら/ばんがむり/雨乞いぬクイチャー/内根間ぬカナガマ/古見ぬ主/長山底/石嶺ぬ道/新城目差親/狩俣ぬイサミガ/ばんがむり(アカペラ)

「家庭和合」ミュージックビデオ
https://www.youtube.com/watch?v=Ko9zoAuwePA

[LIVE Info]
◆松原忠之・下地イサム ジョイントライブ「ミヤコ、みやこ、宮古!」
https://www.respect-record.co.jp/matsubara/

◎那覇公演
日時:2024/7/21(日)17:30開場/18:00開演
会場・問合せ先:Output TEL.098-943-7031
料金:前売3300円/当日3800円(1ドリンク別途)

◎東京公演
日時:2024/7/27(土)昼の部(追加公演)13:30開場/14:00開演、夜の部18:00開場/19:00開演(完売)
会場・問合せ先:南青山MANDALA TEL.03-5474-0411
料金:前売4000円/当日4500円(1ドリンク別途)