箆柄暦『四・五月の沖縄』琉球舞踊家 志田真木
- 2026.03.31
- インタビュー
《Piratsuka Special》
琉球舞踊家 志田真木
~平和への祈りを込めて 慰霊の月に沖縄で舞う~
※以下は表紙掲載記事のロングバージョンです
沖縄の祭祀芸能から生まれ、琉球王朝時代に宮廷芸能として発展し、現代まで受け継がれてきた琉球舞踊。その芸術性は沖縄のみならず、日本が誇る伝統芸能のひとつとして高く評価され、2021年には琉球舞踊で初となる「国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)」が誕生した。その保持者の一人である重踊流(ちょうようりゅう)宗家・志田房子の娘として生まれ、幼い頃から母に師事して舞踊の研鑽を積んできたのが、重踊流二世宗家の志田真木だ。
真木は「物心ついたときには、もう踊っていた」という。母の房子は戦後の沖縄で、琉球舞踊家として絶大な人気を得ていたが、結婚を機に1968年に東京へ転居。当時の沖縄は日本復帰前で、県外では琉球舞踊はもとより「沖縄」自体の認知度も低く、房子は「私の踊りで沖縄の芸能の素晴らしさを伝えたい」と、東京を中心に全国各地や海外で精力的に公演を行っていた。その母のもとで育った真木にとって、踊りはまさに「日常」。遊ぶより踊るほうが楽しく、日々の稽古も休まず鍛錬に励んだ。「母の踊る姿がかっこよくて素敵に見えたから、私もずっと続けてきたんだと思います」
高校卒業後は、沖縄県立芸術大学の音楽学部音楽学科邦楽専攻(現・琉球芸能専攻)に第1期生として進学。東京育ちの真木は「琉球舞踊家として、沖縄での生活体験が必要なのでは」と考え、沖縄の大学を選んだ。だが実際に暮らし始めてみると、東京で沖縄出身の母や祖母と過ごした時間が、実は「沖縄以上に沖縄だった」ことに気付いたという。
「東京の家では、当たり前のように手作りの沖縄料理が食卓に並んでいましたし、日常会話の中でウチナーグチが飛び交っていたので、私はウチナーグチを使う機会はないまでも、聞く耳は持っていたんだなと。そして何より、母が沖縄に強く思いを寄せて日々琉球舞踊と向き合っていることを、改めて実感しました。この経験はすごく大きかったですね」
その後、大学院を修了した真木は本格的に琉球舞踊家として活動を開始。2007年に重踊流二世宗家を襲名し、2011年以降は東京に拠点を戻した。その間、ソロリサイタル「真木の会」をはじめ、数々の公演に取り組む中で常に心がけてきたのは、「一度観た方が『また観たい』と思えるような舞台を届けること」だと語る。
「琉球舞踊も、舞う人によってそれぞれの色や個性があります。私は観る方に『志田真木の琉球舞踊が観たい』と思っていただける存在でありたい。たとえば音楽の場合、誰か一人のアーティストを好きになったら、たとえセットリストが同じでも、ライブには何度でも足を運びますよね。それと同じで、観た方に心のどこかで『この人の踊りをまた観たい』と感じていただけるような、何らかの『種』を残せたらと。それが私のやりがいでもあります」
その思いが実際の結果につながっていることは、彼女の舞台を観れば一目瞭然だ。ゆったりした動きの多い琉球舞踊は、ともすれば「形式張った芸能」とも思われがちだが、真木の踊りは足元から指先まで、すべての所作が圧倒的に美しく、その一つ一つに込められた喜怒哀楽表現のこまやかさと相まって、観る人の目を一瞬たりとも離させない。そして古くから伝承されてきた舞踊の型は決して崩さず、型の中で自身の芸の在り方を模索し、独自の踊りを作り上げていく。そこには「芸の継承」の域を超えた、一人のアーティストとしての個性と美しさがあり、さらにその背後には、彼女が母から受け継いだ「踊りを通じて平和を願う心」が存在しているように思う。真木は言う。
「琉球舞踊には、いにしえの神女たちの祈りのこころが今でも息づいている。時代を超えて人々の心に語りかけてくる琉球舞踊の豊かな世界を、平和への尊さを胸に、皆さまとともに未来へと紡いでゆけたらと願っています」
そうした思いを込めたソロリサイタルが、6/14(日)に国立劇場おきなわ大劇場で開催される。今回は古典舞踊に加えて、重踊流宗家である母・房子の創作舞踊も複数上演する予定だ。真木は「志田房子作品を伝えていくことは、二世宗家である私の大事な役目。宗家は『(真木が)私の想像を超えた表現をしてくれたときに喜びを感じる』とも仰ってくださいますし、舞台上ではその作品性を体現しつつ、私ならではの世界を追求していきたい」と意気込みを語った。
公演が行われるのは、沖縄では慰霊月にあたる六月。当日は志田房子も特別出演する予定だ。舞台と客席で平和への祈りを共有しながら、志田真木の世界をじっくりと味わいたい。(取材&文:高橋久未子/写真:新宮夕海)
志田真木(しだ・まき)
幼少より母・志田房子に師事。沖縄県立芸術大学大学院音楽芸術研究科修士課程を修了し、2007年に重踊流二世宗家を襲名。琉球舞踊「真木の会」にて2005年に文化庁芸術祭新人賞、2009年に同優秀賞、2015年に同大賞を受賞したほか、2022年に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
[Live Info]
◆琉球舞踊 志田真木の世界~舞は祈りであり 祈りは舞となる~
出演:志田真木
特別出演:志田房子(重要無形文化財保持者 人間国宝)
賛助出演:仲程めぐみ(宗家眞境名本流眞薫会 眞薫めぐみの会)
地謡:宮城秀子/金城盛松/新垣俊道/仲村逸夫/仲村渠達也/大城貴幸/入嵩西諭/平良大
日時:2026/6/14(日)開場16:30/開演17:00
場所:国立劇場おきなわ大劇場(浦添市)
料金:前売 S席7,000円/A席5,000円、当日S席7,000円/A席5,000円、学生席3,000円(前売・当日共)
問合せ:琉球舞踊 重踊流 TEL.070-8478-5123 info@choyoryu.com