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箆柄暦『十二・一月の沖縄』2025 下地イサム

2025.12.02
  • インタビュー
箆柄暦『十二・一月の沖縄』2025 下地イサム

《Piratsuka Special》
下地イサム『COOLMIN~波音民謡 宮古編~』

~波音とともに聴くクールな宮古民謡~

故郷・宮古島の言葉(ミャークフツ)で歌詞を綴り、ロックやポップス、ジャズなどの洋楽サウンドに乗せて歌うシンガーソングライター、下地イサム。2002年のCDデビュー以降、オリジナル曲を中心に発表してきた彼が、今回初めて宮古民謡のみで構成したアルバム『COOLMIN~波音民謡 宮古編~』をリリースした。

タイトルは「クールなサウンドで包む民謡」という意味の造語。宮古民謡の中から「漲水(ぱるみず)ぬクイチャー」や「なりやまあやぐ」、「伊良部トーガニ」など、主にイサム自身が愛聴・愛唱してきた曲たちを集め、歌と三線にピアノやギターといった洋楽器で伴奏をつけ、全14曲を収録した。イサムは「土臭さが持ち味の宮古民謡を、クールに聴かせるアレンジを求めて試行錯誤した」と振り返る。

「もともと民謡は大好きで、『いつかは自分でも歌いたい』と思っていました。ただ、民謡歌手ではない僕が民謡を歌うにはどうすればいいのか、その方法がわからなくて。中途半端なことをしたら、民謡を歌う方々に失礼だというという思いもありました」

そんな中、コロナ禍をきっかけにDTM(デスクトップ・ミュージック=パソコンを使った音楽制作)を始めたイサムは、DTMで自身の音楽表現の幅が大きく広がったことを実感し、『宮古民謡にも挑戦してみたい』と思い始めたという。

「僕は民謡歌手のように声を張り上げて歌うことはできないし、静かにささやくように歌うほうが自分らしい。ならばその歌い方を活かして、『踊らせる民謡』ではなく『眠らせる民謡』にしたらどうかなと。DTMでさまざまな音色や和音、リズムを試しては聴き、何度も調整を繰り返して、クールでおしゃれに聞こえるよう、でもサウンド自体には温かみが感じられるよう、アレンジしていきました」

その過程で心がけたのは、「歌詞や歌い回し、三線のフレーズなど、民謡本来の構成要素は変えない」ということだった。

「長年歌い継がれてきた伝統は壊したくなかったので、あらゆる先輩方の歌を何回も聴いて、どの歌詞やどの歌い方が正しいのか、いくつか候補がある場合は自分はどれを選ぶのか、民謡に詳しい方々にも確認しながら作業を進めました。そのうえで目指したのは、寝る前に心地よく聴ける音楽であること、そして薄暗いバーで流れていても違和感がないこと、です(笑)」

そうして生まれた『COOLMIN』は、ピアノの音色を中心としたアンビエントでジャジー、ときにポップなサウンドと、遠くから響いてくるような淡々とした三線のフレーズ、そしてイサムのちょっとハスキーで繊細な歌声がちょうどいいバランスで融合し、洋楽的でありつつ宮古民謡のエスニックでノスタルジックな空気感も感じさせる、文字通り「クールな民謡」に仕上がっている。加えて、随所に宮古島で録音した波音が挟み込まれており、島のビーチにいるような癒し感が味わえるのもポイントだ。宮古民謡をあまり知らない人にとっては聴きやすく、宮古民謡が好きな人は新鮮な感覚で楽しめるだろう。イサムは「このアルバムをきっかけに、宮古民謡に興味を持ってくれる方が増えたら嬉しい」と笑う。

「今回の制作で改めて実感しましたが、宮古民謡って本当にすごいんですよ。たとえば教訓歌の『なりやまあやぐ』とか、僕自身が今まで何千回も聴いて、何百回も歌ってきた歌なのに、決して『もう飽きた』とはならなくて、聴けば聴くほどまた聴きたい、もっと歌いたいと思わせられる。僕がどれだけアレンジしても、そうした民謡の根本にあるものは揺るがない。だからこそ今後も決してリスペクトを忘れず、ベストを尽くして民謡に向き合っていきたい。今回収録した曲以外にも、宮古島には良い歌がまだまだたくさんあるので、この挑戦は今後も続けていけたらと思っています」(取材&文:高橋久未子)

下地イサム(しもじ・いさむ)

1969年、宮古島久松生まれ。2002年にシングル「我達が生まり島(ばんたがんまりずま)」でCDデビュー。現在は沖縄本島を拠点にライブ活動を行うほか、石垣島出身の民謡シンガー・新良幸人とのユニット「THE SAKISHIMA meeting」でも活動。

[CD Info]
『COOLMIN~波音民謡 宮古編~』


ARIZ-2024
2025/10/31発売
2,500円

根間ぬ主~漲水ぬクイチャー/酒田川/なりやまあやぐ/豊年の歌/ばんがむり/平安名ぬ真津小/宮国ぬ姉小/かにくばた~狩俣ぬイサミガ/豆が花/池間ぬ主/伊良部トーガニ/與那武金兄小/多良間しゅんかに/野崎クイチャー

[Live Info]
2025/12/29(月)那覇市・桜坂劇場(ソロ)
2025/12/30(火)浦添市・groove(バンド)
2026/1/9(金)宮古島市・マティダ市民劇場(演芸集団FECのお笑い公演にゲスト出演)
詳細は https://www.piratsuka.com/article/7427/ 参照