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箆柄暦『六月・七月の沖縄』2025 黒島伝統芸能保存会『黒島、こころのうた~黒島民謡決定盤~』

2025.06.02
  • インタビュー
箆柄暦『六月・七月の沖縄』2025 黒島伝統芸能保存会『黒島、こころのうた~黒島民謡決定盤~』

《Piratsuka Special》

黒島伝統芸能保存会『黒島、こころのうた~黒島民謡決定盤~』
~黒島で今も歌い継がれる、島のこころが息づく民謡集~

※以下の記事は、表紙掲載の内容をボリュームアップしたロングバージョンです。

八重山諸島の一つである黒島は、石垣島から高速船で30分ほどの距離にある有人島だ。サンゴ礁に囲まれた美しい海と、牧草地が広がるのどかな風景を有し、島の形がハートに似ていることから「ハートアイランド」とも呼ばれている。畜産業が盛んで、人口約220名に対して牛の飼育数が3000頭以上という「牛の島」。毎年2月に行われる「黒島牛まつり」は、「牛一頭が当たる抽選会」などユニークなイベントが話題で、県内外から多数の観光客が訪れる人気行事となっている。

その黒島で、今も歌い継がれている民謡を集めたアルバム『黒島、こころのうた~黒島民謡決定盤~』が、6月25日に全国リリースされる。黒島の民謡だけを収めた作品はこれまで例がなく、これが本邦初とのこと。録音に参加したのは、石垣島に拠点を置く黒島郷友会の会員の中から、歌三線・舞踊など伝統芸能に携わるメンバーが集まった有志団体「黒島伝統芸能保存会」。同郷友会の会長で、黒島民謡はもとより八重山古典音楽や琉球古典音楽にも精通し、保存会のリーダーも務める高那真清(たかな・しんせい)は、「黒島民謡を次世代に継承していくためには、こうして形に残すことも必要だと思い、収録に臨んだ」と振り返る。

そもそも黒島には、現在確認できているだけで60曲近い民謡があるという。その中には「黒島口説」や「ちんだら節」など、黒島で生まれて他の島々に伝播した歌もあれば、他の島で生まれた歌が黒島に入ってきて、島に根付いたケースもある。いずれにも共通するのは、歌詞が他の島とは発音が異なる黒島独自の言葉「黒島語」で歌われることだ。高那はこの「黒島語」こそが、黒島民謡の要だと言う。

「黒島民謡を歌うときは、黒島語の歌詞を一番大事に考えています。たとえば『黒島口説』の『口説』は、他の島では『クドゥチ』ですが、黒島では『クドゥキ』と言います。そうやって黒島語の発音で歌うと、自分の中でもより感情が入り、黒島のイメージが湧き出てきて、『本当の黒島の歌を歌っている』というに気持ちになるんです」

高那自身は小学校入学の際、親と一緒に黒島から石垣島に転居したが、黒島には祖父母が住んでいたため、その後も盆や正月は島に帰っていたという。子どもの頃は伝統芸能に参加する機会はなかったが、高校を卒業して社会人になり、郷友会に加入した際、伝統芸能の継承者が減っていることを知り、黒島民謡を本格的に学び始めた。黒島出身の先輩に教えを請うたり、実際に黒島で行事に参加したりしながら研鑽を積み、現在は「黒島語で日常会話ができるほどではないが、黒島語は100パーセント聞き取れるし、黒島民謡は問題なく黒島語で歌える」という。「ただ、我々より下の世代では、黒島にルーツがあっても、黒島語を理解できない人のほうが多いんじゃないかな。黒島語をどうやって継承していくか、そこは大きな課題ですね」

さらに高那は「言葉だけでなく、歌そのものの継承にも課題はある」と指摘する。黒島民謡のうち、約半数はユンタ、ジラバ、あゆうと呼ばれる労働歌や祝賀行事の歌だが、それらの中には過疎化に伴う行事の減少により、今ではあまり歌われなくなっているものも多いからだ。ただ、その一方で島の三大行事(旧正月、豊年祭、結願祭)では、今も地区ごとに独自の奉納舞踊曲などが歌われており、島の人々にとっても身近な存在であり続けている。高那は言う。

「今回のアルバムでは、まずそうした身近な曲からきちんと形にしていこうと考えて選曲しました。黒島で生まれた『黒島口説』や『ちんだら節』をはじめ、各地区の豊年祭や結願祭で歌われる奉納舞踊曲なども含めて、CDの収録上限の約72分まで、全18曲を収録しています」

それらの中には、八重山民謡や琉球古典音楽として広く知られる曲もあるが、いずれも歌詞や節回し、テンポなどに独自の特徴があり、他の島の曲とはまた違った、黒島民謡ならではの味わいが楽しめる。高那は「他のどこにも引けを取らない、黒島の民謡がここにある。どの歌も聴いていてワクワクしてくるし、本当にいい歌だなあと思います」と胸を張る。

ただ、現在も黒島民謡は年中行事などで歌い継がれてはいるものの、過疎化のため芸能の担い手自体も減少しており、島の住民だけでは手が回らないため、行事のたびに高那ら黒島郷友会のメンバーが石垣島から黒島に駆けつけ、歌三線や舞踊で参加しているという。また、その郷友会のメンバーも黒島生まれではない二世、三世が増え、伝統芸能に対する関心が薄れがちだ。その反面、地元の黒島では積極的に伝統芸能に関わる子どもたちも増えているといい、「将来には期待が持てる」と高那は考えている。

「今回このアルバムが出ることで、黒島の住民や黒島にルーツを持つ方に、改めて黒島民謡の素晴らしさを感じてもらえたらと思っています。また、これまで黒島をあまり知らなかった島外の方にもぜひ聴いていただいて、黒島ののんびりした癒しの空気を感じて、『黒島に行ってみたいな』『黒島の芸能を見てみたいな』と思っていただけたら嬉しいですね。あと、日本全国には黒島という名前の島が30近くあるそうなので(笑)、そうした他の黒島の方々ともこのCDを通じて、黒島同士の交流ができたらいいな、と考えています」

本作のタイトル『黒島、こころのうた』の「こころ」には、島の愛称である「ハートアイランド」と、黒島民謡が島民や島にルーツを持つ人々の心のよりどころである、という思いが込められている。沖縄の中でも黒島にしかない歌の数々を、本作でじっくり堪能していただければと思う。(取材&文・高橋久未子/撮影・萩野一政)

黒島伝統芸能保存会 高那真清(たかな・しんせい)

1959年、竹富町黒島生まれ。小学校入学と同時に石垣島に転居。高校卒業後、石垣島の黒島郷友会に加入し、黒島民謡を学び始める。併せて八重山古典音楽、琉球古典音楽も学び、八重山古典音楽安室流協和会師範、琉球古典音楽野村流保存会師範の免許を取得。現在は石垣島を拠点に、黒島の伝統芸能の継承や後進の育成に取り組んでいる。

[CD Info]
黒島伝統芸能保存会『黒島、こころのうた~黒島民謡決定盤~』

リスペクトレコード
RES-353
3,410円
2025/6/25発売

黒島口説/笠踊り(東筋・豊年祭奉納舞踊曲)/嘉手久舞節(仲本・庭の芸能舞踊曲)/御前風(かぎやで風節 東筋結願祭)/結願口説(東筋結願祭)/正月ゆんた/石なぐ節(弥勒節)/山﨑ぬあぶぜーま節/まぺらち節~とーすぃ/笠踊り(仲本・豊年祭奉納舞踊曲)/孝行口説/鎌踊り(東筋・豊年祭奉納舞踊曲)/ちんだら節~久場山越路節/笠踊り(保里・豊年祭奉納舞踊曲)/鍬踊り(コームッサ)(保里・豊年祭奉納舞踊曲)/ペンガン捕れ節/まんがにすざ節(親廻り節)/孝不題節

CDの詳細・購入はこちらから
https://www.respect-record.co.jp/discs/res353.html