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箆柄暦『四月の沖縄』2025 琉球古典音楽・仲村逸夫

2025.03.28
  • インタビュー
箆柄暦『四月の沖縄』2025 琉球古典音楽・仲村逸夫

《Piratsuka Special》

琉球古典音楽・仲村逸夫
~琉球古典音楽の道を究め、師匠の歌風を継ぐ~

※以下の記事は、表紙掲載の内容をボリュームアップしたロングバージョンです。

琉球古典音楽(以下、古典)は、かつて琉球王朝時代、朝貢関係にあった中国からの使者(冊封使)などを歓待するため、首里城内で披露されていた宮廷芸能である。歌三線を中心に箏や笛、胡弓、太鼓で構成され、音楽として演奏されるだけでなく、同じ宮廷芸能である組踊(歌舞劇)や琉球舞踊の伴奏にも用いられ、琉球芸能の中核を担っていた。庶民の生活から生まれた民謡と比べると、比較的ゆったりとして格調高い節回しの曲が多いが、中にはアップテンポで軽快な曲もあり、その総数は200曲以上に及ぶ。それらは琉球王朝の消滅後も複数の流派により歌い継がれ、現在も国立劇場おきなわをはじめ、県内外で多数の公演が行われている。

そうした伝統芸能舞台の第一線で今、引く手あまたの活躍をしているのが、歌三線の実演家で琉球古典音楽野村流保存会師範の仲村逸夫だ。確かな技量とたゆまぬ研鑽に裏打ちされた、古典ならではの気品と風格を感じさせる歌三線で、日々組踊や琉球舞踊の舞台の地謡(じうてー:伴奏)を務め、古典の歌会に出演するのはもちろんのこと、クラシックや演劇といった他ジャンルの公演に演奏や作編曲で参加したり、自身の三線研究所で後進の育成指導に取り組むなど、多方面にわたり精力的に活動。2025年は6月に10年ぶり2回目となる独演会の開催を予定しており、「これを機に、よりいっそう芸の道を究めていきたい」と意気込む。

そもそも仲村が「芸の道」に足を踏み入れたのは、17歳のとき。高校の選択授業で「三線」を選んだのがきっかけだった。父が古典の指導者だったため、小学生の頃にも三線を弾いた経験があり、最初は気軽な気持ちで選択したが、いざ始めてみたら「どんどんのめり込んでいった」という。

「高校生になってから古典に触れたら、小学生の頃はわからなかった歌詞の意味が理解できるようになり、琉球王朝時代の歴史や文化が見えてきたんです。これは面白い!と思って、学校の授業だけでなく、父が開いていた古典の研究所にも通うようになりました」

高校卒業後はより本格的に古典を学ぶべく、沖縄県立芸術大学に進学。そこで出会ったのが、今も仲村が「生涯の師匠」と慕う比嘉康春(ひが・やすはる、琉球古典音楽野村流保存会師範)だ。のちに同大の学長も務めた比嘉の卓越した歌三線はもとより、芸との真摯な向き合い方、生徒の個性や自主性を尊重した指導、自らの師匠である安富祖竹久を心から尊敬する姿勢など、その人柄にも深くを受けた仲村は、「先生の歌三線を受け継ぎたい」と決意。同大大学院卒業後は正式に比嘉の弟子となり、門下生として稽古を積んできた。仲村は「今自分がこうして芸能活動を続けているのは、康春先生がいたからです」と振り返る。

「もちろん『歌三線が好き』という気持ちもありますが、やっぱり一番は『康春先生が好き』なんですね。『いつかは先生のようになりたい、先生の歌を歌い継ぎたい』と思うからこそ、僕は歌三線を続けているんだと思います。最近は『自分が先生の歌をしっかり受け継いで、それをまた次の世代につないでいかないといけない』とも思うようになりました。2022年に自分の三線研究所を開いて弟子に教えるようになったのも、『歌の継承』が重要だと考えたからです。独演会ではそうした思いを込めて、初回からタイトルに『歌風を継ぐ』とつけています」

また仲村は「自分が芸能の仕事だけで生活できるようになったのも、康春先生のおかげ」と感謝する。実は沖縄では昔も今も、伝統芸能の実演家は他に仕事を持ち、そちらで生活費を稼ぎながら芸能活動に取り組むのが一般的だ。だが仲村は、比嘉に帯同して県内外の芸能公演に数多く出演し、県外の伝統芸能の実演家らとも交流する中で、「本土の実演家はプロとして芸だけで生活できているのに、実力では負けていない沖縄の実演家が、他の仕事をしないと活動できないのはおかしい。この現状を変えたい」と強く思うようになったという。

比嘉にも「君たちの世代はプロとして活動していくべきだ」と背中を押されたこともあり、30歳を前に「まずは自分が一歩踏み出さなくては」と、芸の道一本で進むことを決断。その思いを当初から応援し続ける妻や家族の支えもあって、活動の幅は徐々に広がり、現在は地謡を中心に多様な舞台への出演が続いている。仲村は「僕らの世代は恵まれていると思う。だからこそ、芸としっかり向き合わなければならない」と語る。

「僕が大学院を卒業した頃に国立劇場おきなわが開場して、伝統芸能公演の数が一気に増えました。最近は学校での芸能鑑賞会なども多くなり、業界全体が活性化していて、僕ら以降の世代は(以前に比べて)活動のチャンスがたくさんあると思います。でも、手当たり次第に舞台に出て、やっつけで仕事をしていたら、なかなか本物にはなれないし、そのうち声がかからなくなる。大事なのは一つ一つの公演にしっかりと向き合い、周囲の方の意見に素直に耳を傾けながら、失礼のないよう取り組むこと。それがその後の仕事につながると考えていますし、後輩にもそう伝えています」

ちなみに比嘉は、仲村が古典以外の舞台に出演することについては一切反対せず、むしろ「どんどんやりなさい」と背中を押してくれるという。

「先生は、弟子を放し飼いにする方なので(笑)。古典の世界では、師匠に『あれはダメ、これはダメ』と言われることも多い中、僕は幸せだなと思います。やはりクラシックとか演劇とか、普段とはまったく違うジャンルの方々と共演すると、自分自身が刺激を受けて、古典の歌い方や三線の弾き方にもいい影響があるんですね。それに、そうした舞台を見に来た方が古典を初めて聴いて、『こんな音楽があるんだ、面白いな』と思ってくれたら、次は古典の公演に足を運んでくれるかもしれない。やはり古典のファンも次第に高齢化していきますし、古典以外の公演を通して、僕らと同世代やその下の世代の方が、古典に興味を持ってくれたらいいな、と思っています」

6月の独演会では、自らを今の場所に導いてくれた師匠への敬愛の念を込め、比嘉や自身が得意とする古典曲を中心に、独唱のほか琉球舞踊との共演も交え、全10曲以上を披露する予定だ。さらには古典だけでなく、比嘉から習った沖縄民謡3曲も歌うという。その民謡は、もともと比嘉の師匠である安富祖竹久がレパートリーとしていたもので、他の歌い手とは違う節回しに特徴があるそう。仲村は「古典の人が歌う民謡には、また独特の味わいがある。これも安富祖先生から康春先生へ、そして自分へと伝わる『継承歌』です」と説明しつつ、メインとなる古典について「『古典は難しい』という先入観を持たれがちですが、まずは僕の歌と三線を音楽として、じっくり聴いてもらえたら」と語った。

「琉球王朝時代に作られて、現在まで継承されてきた音楽や踊りには、やはり独特の奥深さがあって、それが古典の最大の魅力だと思うんです。今回の独演会では、素晴らしい舞踊家や演奏家の皆さんもたくさん参加してくださいます。古典を初めて聴くという方にもその魅力を感じてもらえるよう、精一杯演奏したいと思います」(取材&文・高橋久未子/撮影・大城洋平)

仲村逸夫(なかむら・いつお)

1980年、大宜味村生まれ。17歳から琉球古典音楽を学び始め、父である仲村勲に手ほどきを受けたのち、沖縄県立芸術大学で比嘉康春に師事。同大大学院修了後、国立劇場おきなわ組踊研修(第1期生)修了。近年は個人での演奏活動や後進の指導のほか、他の琉球芸能家と共に「古典企画」を立ち上げ、演奏会や琉球音楽の普及のためのさまざまな活動も行っている。琉球古典音楽野村流保存会師範。第59回沖縄タイムス芸術選賞大賞。

仲村逸夫 三線教室
https://ryukyu50mula34.wixsite.com/sansin

[Live info]
◆琉球古典音楽 第2回 仲村逸夫独演会-歌風を継ぐ Part2-
出演:仲村逸夫(歌三線)/池間北斗(箏)/入嵩西諭(笛)/森田夏子(胡弓)/久志大樹(太鼓)
踊り:阿嘉修/嘉数道彦/佐辺良和/宮城茂雄/金城真次

日時:2025/6/28(土)12:00開場/13:00開演
場所:国立劇場おきなわ大劇場(浦添市)
料金:前売一般4500円、学生席・エコノミー席2500円(当日各500円増、未就学児入場不可)
問合せ:シアター・クリエイト TEL.090-3074-8295