箆柄暦『十二月・一月の沖縄』2024 映画『かなさんどー』
- 2024.11.27
- インタビュー
《Piratsuka Special》
映画『かなさんどー』
~自然豊かな伊江島を舞台に描く、家族の愛と許しの物語~
※以下は、表紙に掲載している記事の内容をボリュームアップしたロングバージョンです
沖縄出身のお笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリとして人気を博し、芸人・俳優業で活躍する一方、2006年からは映画の世界に飛び込み、これまでに10本以上の監督・脚本作品を発表してきた照屋年之。2018年に制作した、沖縄・粟国島の葬礼の風習と家族の絆を描いた長編2作目『洗骨』は、海外の映画祭にも出品されて高い評価を得たが、このたび前作から6年ぶりに、長編3作目となる『かなさんどー』が完成した。照屋監督は「前作を超えなくては、というプレッシャーはなかったです。いつでも『最新作が最高傑作でありたい』と思っているので」と、その完成度に自信を見せる。
物語の舞台は、沖縄本島北部の離島・伊江島。妻を病気で亡くし、認知症を患って余命幾ばくもない父を見舞ってほしいと、父が経営していた会社の従業員から懇願され、一人娘がしぶしぶ島に戻ってくる。彼女は七年前、母が亡くなる間際に倒れた際、助けを求めて何度もかけた電話を取らなかった父を許せず、母の没後は一度も帰島していなかった。従業員に促されて見舞いには行くものの、心を開かずにいた彼女だったが、島で両親と過ごした時間を思い出し、また母の遺した日記の中に「二人の愛おしい秘密」を見つけたことで、父への思いが変化していく…というヒューマンストーリーだ。
もともとは、2020年に照屋監督が制作した短編映画『演じる女』の筋書きがベースとなっているが、長編化にあたっては家族を取り巻く物語をイチから考え、脚本を練っていったという。テーマは「家族の愛と許しの物語」だ。
「人は誰でも、何かしら後悔の念や罪悪感という十字架を背負って生きていると思うんです。死ぬときに、見送る側がその十字架を少しでも軽くしてあげられたら、それは素敵なあの世への見送り方になるんじゃないか。じゃあ、そのための方法って何だろう?と考えたとき、その一つが『許してあげること』なのかなと。そこから今回の作品が生まれました」
当初、娘は「父は母を裏切っていた」「母は惨めな女だった」と思い込んでいたが、母の日記を読んで「決してそうではなかった」ことを知り、父をきちんと見送ろうと決める。その心情の変化をときに繊細に、ときにダイナミックにいきいきと表現しているのは、沖縄出身の若手女優で、数々のドラマや映画でも活躍している松田るか。ほがらかでチャーミングな元民謡歌手の母親役を演じたのは、劇団四季出身でミュージカルや舞台の経験も豊富な堀内敬子。そして、お調子者で酒飲みだが家族思いで従業員思いの父親役は、近年話題の海外配信ドラマ『SHOGUN 将軍』にも出演した人気実力派俳優、浅野忠信が務めた。照屋監督は、三人のキャスティングについて「大成功だった」と振り返るが、実は浅野だけは自身の発案ではなく、プロデューサーからの提案だったという。
「最初は『いや、この役は浅野さんじゃカッコ良すぎるでしょ』って思ったんですが、逆に『こんな情けないオジサンを、浅野さんに演じてもらうのも面白いかも』って思い始めて。前作の『洗骨』でも、渋い二枚目役が多かった奥田瑛二さんにダメ親父の役をやってもらったら、奥田さん自身も『自分の別の一面が出せた』と言ってくれたので、浅野さんもアリかなと。そうしたら現場でも実に見事に演じてくれて、すごくいい化学反応が起きたと思います」
物語は伊江島の美しい自然の中、この家族三人の過去と現在を行き来しながら進む。病床の父と娘の距離を近づけようと奮闘する従業員(Kジャージ)、父を見守る病院の看護師(上田真弓)らとのユーモラスなやりとりも交えながら、家族の愛の形を優しく切なく、ハートフルに描いていくが、その要所要所で登場するのが、映画タイトルにもなっている楽曲「かなさんどー」だ。ウチナーグチで「愛してるよ」という意味のこの曲は、ベテラン民謡歌手“元ちゃん”こと前川守賢が1981年に発表したオリジナル民謡で、沖縄ではよく知られたラブソングの定番である。
劇中ではもともと五番まである歌詞の中から、ストーリーに合う二つの歌詞がピックアップされ、主に松田と堀内によって歌われた。松田の独唱シーンでは、前川が自ら申し出て三線伴奏を担当し、「40年以上歌ってきて初めて、この歌の新しい魅力を知った」と喜んだそうだ。確かに「最初にこの映画があって、後からこの歌が生まれたのでは」と錯覚しそうになるほど、映画の世界観とドンピシャな選曲。この歌に乗せて、夫婦の、そして親子の「互いを愛おしむ気持ち」を、伸びやかな美声で切々と伝える松田の熱唱に、きっと心が揺さぶられるはずだ。
ちなみに照屋監督は、本作に「親には、子どもが知らない別の顔もあるんだよ」というメッセージも込めたという。
「子どもは親のことを全部知ってると思いがちだけど、実は親にもそれぞれ隠していることや秘密があって、その秘密を覗いたとき、子どもはショックを受けるのか、それとも感動するのか。この映画で描いているのは、その一つの例だと思います。これを見て『自分が見ている親の姿だけが、本当の親の姿じゃないのかな』とか、『結婚前はそれぞれどんな恋愛をしてきたのかな』って考えたら、きっと親の人生を想像するのが楽しくなるはず。親子関係で悩んでいる人も、特に悩んでない人も、この映画からそんなことを考えてもらえたらと思います」
こうして生まれた長編映画『かなさんどー』は、沖縄で2025年1月31日から、全国で2月21日から公開予定だ(前売券発売中)。照屋監督は「今から公開日が待ち遠しくてたまらない」と笑う。
「映画が生まれるまでは苦しいこともたくさんあるけど、完成してみたら作品が可愛くて仕方なくて、また作りたい!って思っちゃうんです。僕は映画作りが大好きだし、新作のアイディアはまだまだたくさんあるので、これからも映画を撮り続けていきたい。まずは今回の新作を、より多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです」(取材&文・高橋久未子)
照屋年之(てるや・としゆき)
1972年、沖縄県生まれ。日本大学芸術学部映画学科演劇コースを中退後、中学の同級生だった川田広樹とお笑いコンビ「ガレッジセール」を結成。テレビ番組を中心に活躍し、2005年に「ゴリエ」のキャラクターで大ブレイク。その後は俳優としても活躍の場を広げ、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」では主人公の兄役を好演。
2006年、短編映画『刑事ボギー』で監督デビューを果たす。2018年制作の長編映画『洗骨』は、モスクワ国際映画祭など各国の映画祭に出品されて高い評価を得、日本映画監督教会新人賞を受賞した。
◆映画『かなさんどー』
https://kanasando.jp/
監督・脚本:照屋年之
出演:松田るか/堀内敬子/浅野忠信/Kジャージ/上田真弓/松田しょう/新本奨/比嘉憲吾/真栄平仁/喜舎場泉/うどんちゃん/ナツコ/岩田勇人/さきはまっくす/しおやんダイバー/仲本新/A16/宮城恵子/城間盛亜/内間美紀/金城博之/前川守賢/島袋千恵美
配給:パルコ
2025/1/31(金)沖縄先行公開、2/21(金)全国公開
(C)「かなさんどー」製作委員会