箆柄暦『十一月の沖縄』2024 栄町市場
- 2024.10.30
- インタビュー
《Piratsuka Special》
栄町市場
~ひとのつながりと音楽の力で この市場を盛り上げていく~
栄町市場は、那覇市のゆいレール安里駅前に広がる昔ながらのアーケード商店街だ。細い路地が迷路のように入り組んだ昭和レトロな町中には、昼は生鮮品や惣菜、スイーツ、衣料雑貨などの小売店や飲食店が軒を連ね、夕方からはそれらに代わって居酒屋やバーが営業を始める。夜は地元客や観光客が大挙して訪れるため、近年はこの一帯を「飲み屋街」として紹介する向きもあるが、それは一面に過ぎず、ベースにあるのはあくまで「市場(ウチナーグチで言えば「マチグヮー」)。元を辿れば現在のような夜の賑わいが生まれたのも、昼夜にかかわらずこの市場を愛し、町づくりに関わってきた人々が、町の活性化を願い、人の力と音楽の力で、さまざまな取り組みを続けてきたからに他ならない。
そもそも栄町市場が誕生したのは、終戦間もない1949年(昭和24年)。戦前、この場所には「ひめゆり学徒隊」の母校である二つの女学校があったが、戦災で校舎が焼失し、その跡地に栄町市場が作られた。昭和の頃は那覇市民の台所として文字通り「栄え」、路地には人の往来が絶えなかったというが、平成のバブル崩壊後は近隣に大型スーパーが次々と開店したこともあり、来訪者が激減。2000年代以降は建物の老朽化も進み、「全面建て替え・再開発」という話も取り沙汰される中、市場内では別の道を模索する動きが現れ始めた。その中心にいたのが、2003年から市場で居酒屋「生活の柄」を営む糸満盛仁(いとまん・もりと)だ。盛仁は言う。
「ここはショッピングモールのように清潔でキレイな場所ではないけど、店の人もお客さんも含めた、人と人とのつながりが強くあって、それが確実に美しいんだよね。そこが栄町市場の魅力だから、今の空気感は残したまま、市場を元気にできないかと考えた」
もともと盛仁はロックバンド「マルチーズロック」のギター&ボーカルとしても活動しており、市場の店主の中にはミュージシャン仲間も複数いた。彼らは「俺らが何かやるなら、音楽しかないだろう」と話し合い、それぞれの店でライブを行っていたミュージシャン達も巻き込み、町おこしの起爆剤としてオリジナルアルバム『めいどいん栄町Vol.1』の制作を計画。このときに企画の目玉として結成されたのが、市場と縁のある女性達によるユニット「おばぁラッパーズ」だった。加入を打診された新城カメーは、そのときの思いをこう振り返る。
「私は子どもの頃から栄町市場の近くで育って、大人になってからも市場に通い続けてきた。私ほど市場を愛している人はいないし、ここに買い物に来る方々がいる間は、私にできることをやって町を盛り上げたい」
こうして参加を快諾したカメーは、他のメンバーとともに自身の市場に対する思いを歌詞に綴り、ラップ調で歌い上げた。個性的な衣装とサングラスでポーズを決め、コミカルなパーフォーマンスで生活感あふれるラップを繰り出す「おばぁラッパーズ」は、全国的にも大いに注目を集め、2006年にリリースしたアルバムは大評判に。翌2007年から始まった「栄町屋台まつり(現在は「栄町市場まつり」と改称)」では、おばぁラッパーズやマルチーズロックら、アルバム参加ミュージシャンのライブが生で見られることもあって、県内外から多くの観客が押し寄せるようになった。その結果、「寂れかけたシャッター商店街」だった栄町市場には、夜営業の居酒屋を中心に開店希望者が殺到。昭和レトロな雰囲気もむしろ追い風となり、栄町市場は賑わいを取り戻していったのである。
その後2010年には、おばぁラッパーズや市場で働く人々が多数参加したセカンドアルバム『めいどいん栄町市場Vol.2』をリリース。アルバムの制作過程を追ったドキュメンタリー映画『歌えマチグヮー』も2012年に全国公開され、栄町市場やおばぁラッパーズは「音楽によるユニークな町おこしの成功例」として、県内外のメディアで取り上げられる機会も増えていった。
だが盛仁たち市場の面々は、この現状に満足しているわけではない。なぜなら最初にも触れたとおり、ここはあくまで「市場」だからだ。現在、市場内で父から引き継いだ精肉店を営み、栄町市場商店街振興組合の理事長を務める髙良武一郎(たから・たけいちろう)は、「夜だけでなく昼も元気な、バランスが取れた町を作っていきたい」と、次なる目標を掲げる。「栄町市場は人と人との距離感が近くて、初めて来た方も親しみやすさを感じられる場所。そういう昼の市場の魅力も、ずっと残していきたい」
同組合事務局長の山田紗衣(やまだ・さえ)も、その「距離感」に魅了された一人だという。「県外から移住してきて、たまたま栄町市場を訪れたとき、市場の人たちと話しながら買い物したり、一緒にご飯食べたりしたのがすごく楽しくて。その後、夫と一緒に店(コーヒー専門店『COFFEE potohoto』)を始めてからは、ここが自分の居場所なんだって感じたし、子育てでも市場の人たちがたくさん手助けしてくれて、心強かった。今どきのセルフレジとは逆の、人間同士のコミュニケーションこそが市場の良さだと思います」
実際に今年からは山田らが中心となり、午前中に市場で買い物したり、朝食を楽しんだりできる朝活的イベント「おはよう栄町市場」がスタート。昼間の市場を盛り上げる活動も着実に進んでいる。盛仁は言う。
「組合も店の人もお客さんも、みんながこれだけ町を愛して、町の活性化に力を入れてる商店街って、他にないと思うよ。祭りをやるとかCDを出すとか、具体的なアクションが起こせるのは、それだけ町への愛がある人達がいるからだよね。次は市場の人たちみんなに参加してもらって、栄町市場のテーマソングを作りたいな」
そんな市場への「愛」にあふれた祭り「栄町市場感謝祭」が、11/30(土)に市場内の路上で開催される。現在、祭りは春から秋にかけて年に数回、隔月で行われており、2024年はこれが最後の開催とのこと。出演はおばぁラッパーズやマルチーズロック、栄町市場を拠点に活動するダンスや民謡などのグループに加えて、スペシャルゲストでメジャーシーンでも長年活躍する人気シンガー、EPOが登場する。ぜひ会場に足を運び、栄町市場ならではのアットホームな空気と、サイコーのライブステージを楽しんでもらえればと思う。(文・高橋久未子/撮影・萩野一政)
栄町市場のみなさん
写真前列:おばぁラッパーズ(左からカマドゥ、カメー、うしぃ)
写真後列(左から):高良武一郎(栄町市場商店街振興組合理事長、高良ミート代表)/山田紗衣(同事務局長、COFFEE potohoto経営)/糸満盛仁(同理事、生活の柄 店主、マルチーズロック ギター&ボーカル)
◆栄町市場感謝祭2024
スペシャルゲスト:EPO
出演:おばぁラッパーズ/マルチーズロック/The栄町ダンサーズ/永楽 他
日時:2024/11/30(土)17:00開始
場所:栄町市場(那覇市)
料金:入場無料
問合せ:栄町市場商店街振興組合 TEL.098-886-3979
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