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箆柄暦『八月の沖縄』2024 中村亮

2024.07.31
  • インタビュー
箆柄暦『八月の沖縄』2024 中村亮

《Piratsuka Special》

中村亮(Akira Nakamura)
~沖縄から世界へ音楽を発信。その視線の先にある未来~

ドラムという楽器を軸に、ソロアーティスト、プレイヤー、作曲家、アレンジャー、プロデューサーと、多彩な活動を展開している中村亮。生まれ故郷の沖縄をベースに、東京など国内はもとより海外でも精力的に演奏を行い、繊細かつグルーヴィなプレイとオリジナリティに富んだ楽曲で、世界各地の観客や共演ミュージシャン達から高い評価と信頼を得ている。

沖縄の音楽シーンでは、2007年に結成されたコンテンポラリージャズバンド「element of the moment」の中心メンバーであり、県内の人気ジャズイベント「Jazz in Nanjo」や「なはーとジャズマンスコンサート」の運営にも携わっていることから「ジャズの人」というイメージも持たれがちだが、実のところその音楽性は幅広く、ジャズをはじめロック、ファンク、R&B、ポップス、ワールドミュージックなどジャンルレス、かつボーダーレス。「音樂にジャンルは関係ない。どんなジャンルでもいい音樂はいいし、その音樂に触れることで圧倒的な愛や平和を感じられて、人生がすごく豊かになる」というのが、中村の信念だ。

もともと両親が音楽家という家庭に生まれ、幼少期からクラシックの英才教育を受けて育った。だが、当時は「音楽の面白さなどまったく分からず、嫌々レッスンに行かされていた」。中学では吹奏楽、高校ではバンド活動を楽しんだものの、父の勧め通り「東京藝大に進学してクラシックの音楽家になる」という将来がどうしても思い描けず、「いったん一人になってゼロから考える時間が欲しい」と、高校3年で単身アメリカに留学。そこで出合ったのがドラムだった。「直感的に『これが自分の人生を賭けてやりたいことだ』と思った」。この瞬間から人生が変わり、「何もかもが楽しくなった」という。

高校卒業後は、アメリカの名門音楽大学・バークリーに進学。1年目からライブハウス等に出演するようになり、プロの現場でドラムを叩き始めた。「今思えば、本格的にドラムの勉強を始めたのは大学に入ってからだし、周囲の学生に比べても、めちゃくちゃ下手だったはず(笑)。ただ『どういうドラムを叩きたいか』ははっきりしてたから、そのオリジナリティが評価されたんだと思う。日本やヨーロッパは『長く一緒にやってる人』を優先しがちだけど、アメリカは『いま輝いてる人』を選ぶから、そこは音楽に対する価値観の違いかなと」。

そんな彼が目指していたドラムは、曰く「最高のグルーヴと赤い絨毯(レッドカーペット)」。「ドラムが最高のビートを叩き出すことで、同じステージに立つシンガーやプレイヤーが『超特別な人』に見える、そういうドラマーになると決めていたし、そのためには今何をやらなければならないか、常に考えていた」。この姿勢は、基本的に今も変わらないという。

そして大学卒業後は、そのままアメリカでプロの道へ。最初はボストン、そして上海、ロサンゼルス、ニューヨークと、拠点を移しながら活動を続け、ドラマーとしての実績を積んでいった。2007年から2年ほどは、思いがけず襲われた脳腫瘍の治療のため、沖縄で療養生活を送ったが(この時期にelement of the momentを結成)、回復後は再び沖縄を出て東京へ。東京で約6年、その後はドイツのベルリンで約4年活動し、2019年、40歳のとき沖縄に戻った。このタイミングでの帰沖は、実は「大学に入った頃から決めていたこと」だという。

「バークリーではそれまで知らなかったことをたくさん学んで、自分が求める音楽を深掘りし、自分のアイデンティティを確立することができた。そのとき『沖縄にもこんな素晴らしい学校があったらいいのに』と痛感して、『俺が40歳くらいになったら沖縄に戻って、沖縄で音楽学校を作ろう』と思ったんです。生まれ育った環境の違いだけで、音楽を学びたい人が学べないのは不公平だから。それに、バークリーで教えてるのはジャズもブルースもファンクもロックも、すべてアメリカの文化の中で生まれた音楽で、俺たちアジア人が学ぶうえでは、どうしても足りない部分がある。今は自分が東京や海外で体験してきたことをもとに、これから沖縄に『アジアの若者のための音楽学校』を作るにはどうすればいいか、考えているところです」

そんな中、昨年は中村自身の音楽活動にも新たな変化があった。作曲からアレンジ、演奏、録音、ミキシング、動画制作まで、すべてを一人で行うソロプロジェクト「akira.drums(アキラ・ドット・ドラムス)」を立ち上げ、デビューアルバムを発表したのだ。複雑なビートとメロディが絶妙に絡み合い、独特の心地よいグルーヴを生み出す楽曲群には、中村がこれまで培ってきた音楽体験が凝縮され、聴き込むごとにクセになる味わいだ。中村は「ソロを始めたことで、自分の音楽がさらに自由になれて、本当に幸せ」と笑う。

「今までは『誰かと一緒に演奏する』ことを前提に曲を書いてたけど、全部自分でやるならその辺りは気にせず、どんなに難しいメロディもアレンジも、自由に作ることができる。以前は『赤い絨毯』が俺の役割だと思い込んでて、もちろん今も誰かのバックで叩くときはそこは変わらないけど、ソロを始めたことで『自分は他の人のサポートだけじゃない、一人のアーティストとして音楽を作れるんだ』と気付いたし、そこから表現の幅も広がって、ドラミングがめっちゃ良くなった。今後はakira.drumsをメインに、自分の音楽を世界に発信していきたい」

現在は「akira.drums」名義で毎月新曲を配信リリースしており、10月には2枚目のアルバムを発表予定とのこと。また、9月には那覇文化芸術劇場なはーとで、中村がプロデューサーとして企画・出演する「なはーとジャズマンスコンサート」が行われる。那覇を中心に活動するジャズミュージシャンが多数出演し、ビギナーにも親しみやすいプログラムで構成された本公演には、中村の「いま沖縄にある素晴らしい音楽を、もっと多くの人が気軽に楽しめる環境を作りたい」という、強い思いが込められている。

「沖縄にはジャズにしろロックにしろ、世界的レベルで素晴らしい先輩ミュージシャンがたくさんいる。見ている人の魂が勝手に震えちゃうような、そんな『人間』を感じる歌や演奏が今ここにあるんだから、まずはとにかく一度見てほしいなと。ただ、そのためにはまず『ジャズは難しい』という思い込みを壊して、会場に足を運ぶきっかけを作ることが重要。この公演が、その最初の一歩になったらいいなと思います」
(取材&文・高橋久未子/撮影・萩野一政)

中村亮(なかむら・あきら)

1979年、那覇市生まれ。高校時代1年間のアメリカ留学を経て、1998年にバークリー音楽大学へ進学。卒業後はフリーのプロドラマーとして、アメリカ、上海、東京、ドイツなどで活動し、2019年に帰沖。現在は県内外や海外でライブを行うほか、県内ジャズイベントのプロデュース等も手がけている。

オフィシャルサイト
https://www.akira-drums.com/

[CD Info]
akira.drums『We have only one season』

2023/8/20発売

We have only one season/Never say never/Space Invader!/Fried egg forever/Let’s grab a brunch/How to find You/You/No more pudding

※各種音楽配信サイトでストリーミング配信&ダウンロード販売中
https://linkco.re/nF2b7eMH

[Live Info]
◆なはーとジャズマンスコンサート
https://www.nahart.jp/stage/20240927/

日時:2024/9/27(金)19:00、9/28(土)15:00
場所・問合せ:那覇文化芸術劇場なはーと小劇場 TEL.098-861-7810
料金:1日券前売2500円/当日3000円、2日券前売4000円/当日4500円、24歳以下・障がい者前売1000円/当日1500円 ※未就学児入場不可

[出演]
9/27(金):中村瑠美子(vo)/David Negrete(sax)/Mitchy(vo)/上原高夫(g)/櫻井萌(p)/真境名陽一(b)/中村亮(dr)
9/28(土):MAYA HATCH(vo)/Patriq Moody(tp)/知念嘉哉(g)/髙雄飛(g/vo)/エマ・アルカヤ(fl)/広瀬千代(p)/高尾英樹(b)/中村亮(dr)

※関連企画として、那覇市内のジャズスポットを中村亮のガイド付きで回る「那覇ジャズまーい~はじめてのジャズスポットめぐり~」を9/1(日)、14(土)、22(日)に実施。受付開始は8/6(火)10:00(先着順)。
https://www.nahart.jp/course/20240901/