島袋恵美子は、今年で芸歴45年を迎えるベテラン民謡歌手である。民謡好きな母や親戚の影響で幼少期から民謡に親しみ、高校生のとき同郷（読谷村）出身の民謡歌手、山内昌春に師事。ほどなく、民謡のど自慢大会で優勝してレコードデビューを果たし、歌手活動を開始した。30代から40代にかけては、民謡系ファミリーバンドのボーカリストとしてステージに立ち、33歳で初のソロアルバムを発表。50代に入った2014年からは、古謝美佐子ら初代ネーネーズのメンバー3名とともに「うないぐみ」を結成し、県内外でライブを行う一方、若手唄者の島袋辰也とも定期的に唄会を開くなど、ソロ活動も続けてきた。

そんな彼女が今年、前作から30年ぶりとなるフルアルバム『琉華』をリリースした。きっかけを作ったのは、彼女を師と仰ぐ久米島出身の唄者、村吉茜。大事な唄会や録音の前には、必ず島袋にアドバイスを求めるという村吉は、旧知の仲である島袋の娘から「ママがずっと『アルバムを出したい』って言ってるけど、何も進んでない」という話を聞き、「出す気があるならぜひ作りたい」と、民謡歌手でプロデューサーの夫、松田一利に相談。松田はもとより、松田から話を聞いたレコード会社も即座に同意し、わずか2日間でCDの制作が決定した。島袋は「話が急に決まってびっくりしたけど、とても嬉しかった」と振り返る。

「ソロでの録音は久しぶりで、最初は不安もありましたが、今回は息子（キーボード＆ドラム奏者の名嘉太一郎）がサウンドプロデュースをやってくれて、息子の妻（民謡歌手の石嶺愛莉）や娘、家族同然のかーずー（松田）、茜、たーつー（島袋辰也）も参加して一緒に歌ってくれたので、本当に“家族だけで作ったアルバム”って感じなんです。みんなが側にいるから『一人じゃない』って安心できたし、レコーディングもリラックスして、自分の思うとおりに歌えました」

そのアルバムに収録されているのは、彼女自身が「歌いたい」と選んだ15曲だ。特に、故郷の読谷村が舞台の「東門（あがりじょう）」と、最初にのど自慢大会で歌って優勝した「吉屋物語（ゆしやものがたり）」は、以前から「次にアルバムを作るなら必ず録音したい」と思っていた曲だそうで、島袋は「ようやく念願が叶った」と喜ぶ（ちなみに今回のジャケット写真も東門で撮影したもの）。加えて、敬愛する先輩唄者の大城美佐子や瀬良垣苗子の代表曲をはじめとした沖縄民謡の名曲・定番曲、ネーネーズのカバー曲、30年前のソロアルバムに収録した自身のオリジナル曲「恋ぬ花織（くいぬはなうい）」など、彼女が愛唱・愛聴してきた曲がずらりと並ぶ。

それらを一聴してまず圧倒されるのが、なんといってもそのずば抜けた美声と歌唱力だ。伸びやかさと艶やかさを兼ね備えた中に、濃やかな情と気品ある色香がにじむ歌声は、沖縄の女性唄者の真骨頂とも言うべき聴きごたえで、耳から心に染み入ってくる。息子の太一郎によるアレンジも、ピアノやギターなどの洋楽器と歌三線がちょうどいいバランスで融合し、歌の魅力を最大限に引き出している。

総合プロデュースを務めた松田は、「今回はママ（島袋）のありのままの歌を録音したかったので、アレンジは全面的に太一郎に任せました。小さい頃からママの歌を聴いてきた彼なら、どうすれば一番いい感じで録れるか分かるだろうと思ったし、実際にこのやり方で本当によかったと感じています。このCDをきっかけに、もっと多くの方にママの歌を聴いてもらえたら嬉しいです」と語った。

その彼女の生歌をたっぷりと聴けるCD発売記念ツアーが、7月に沖縄で、8月と9月に東名阪で開催される。全公演に村吉がゲスト出演するほか、一部公演には松田と島袋辰也も参加予定だ。沖縄民謡ファンにとっては必聴間違いなしのライブツアー、ぜひお見逃しなく。（取材＆文・高橋久未子／撮影・山田千晶）