「元ちゃん」こと前川守賢は、沖縄では世代を超えて誰もが知る人気スターだ。21歳のときオリジナル民謡「かなさんどー」で鮮烈なデビューを飾って以降、「遊び庭（あしびなー）」「世果報（ゆがふう）でーびる」など数々のヒット曲を世に放ち、唄はもとより芝居や踊り、ＣＭ出演にイベント司会、ラジオのパーソナリティなど、幅広く活躍してきた。

そんな彼が、還暦を超えて3年目となる今年、久々のニューアルバム『ちゃーがんじゅう』をリリースした。タイトルは「いつも元気」を意味するウチナーグチで、アルバムには同名の新曲を含む全14曲が収録されている。意外なのはその多くが、唄三絃メインの正統派民謡であることだ。元ちゃんといえば、「明るく元気でポップなオリジナル民謡の歌い手」という印象が強いが、本作ではそのイメージから一転。田場盛信、饒辺愛子、徳原清文、金城恵子、古謝美佐子、新良幸人、ひがけい子ら、民謡界のトップアーティストをゲストに招き、彼らとのデュエットを中心にソロも交え、「これぞ民謡」という名曲の数々を吹き込んだ。その理由について、彼は「先輩方から受け継いだ民謡を次世代の後輩達に繋いでいきたい、という思いが強くなった」と語る。

「僕自身はもともと、漫談家だった父の前川守康が県内を巡業中に名護の劇場で生まれたので、幼少から民謡や歌劇が身近にある環境で育ちました。周囲には、父とコンビを組んで喜劇舞台『ワタブーショー』をやっていた照屋林助さんをはじめ、民謡の名手の嘉手苅林昌さん、登川誠仁さん、知名定男さんなど、素晴らしい先輩方がたくさんいた。僕はその唄や芸を間近で見聞きして、多くのことを学んできたんです。

だから僕は“元気の元ちゃん”のイメージで走り続ける一方で、『先輩方から教わった正統派の民謡を、三絃一本できちんと歌い継ぎたい』という思いも、ずっと抱いていました。それで今回、新作のお話をいただいたとき、『今までの“元ちゃん”にはなかったものを作りたい』と思ったんです。お世話になった先輩方や縁の深い方など、僕が尊敬する唄者の方々と一緒に歌って、その唄を世に残したい。そして僕が歌う正統派の民謡も皆さんに聴いてほしい、と」

そうして共演を打診されたゲスト陣はみな快諾し、元ちゃんとの思い出の曲などでレコーディングに参加。彼らとのデュエットで、そしてソロで収録された元ちゃんの唄三絃は、長年の経験に裏打ちされた演奏力の高さはもちろんのこと、楽曲の世界観を情感豊かに歌い上げる表現力といい、早弾きで繰り出す三絃のリズムのキレといい、どこをとっても“唄者・前川守賢”の本領発揮と言うべき仕上がりで、聴きごたえ十分だ。元ちゃんは「若手の唄者が、これを聴いて昔唄を歌うようになってくれたら、もっと嬉しいですね」と笑った。

「タイトル曲の『ちゃーがんじゅう』には、『みんな笑顔で元気に過ごせますように』という思いを込めました。大変なことも多い時代だからこそ、未来に向かって笑って生きたいですね」
（取材＆文・高橋久未子／撮影・喜瀬守昭）