東京での活動を経て、現在は故郷の沖縄を拠点とするジャズフルーティストの西仲美咲が、2023年3月、7年ぶりとなるニューアルバム『レキオヒストリアII』をリリースした。本作は前作『レキオヒストリア』に続き、沖縄の民謡や愛唱歌、沖縄をテーマにしたオリジナル曲などを、ピアノとのデュオで演奏したインストゥルメンタルアルバム。西仲は本作に、「沖縄の歴史を作ってきた先人達への尊敬と感謝、そして彼らが伝えてきた島の心を未来に繋げたいという思いを込めた」と語るが、そこには彼女が実際に出会った先人達の存在、そして沖縄における自身の経験と記憶が、強く反映されているという。

「もともと沖縄育ちの私にとって、沖縄の音楽は身近すぎて、以前はあまり興味がなかったんです。でも十数年前、ジャズピアニストの屋良文雄さん（2010年に逝去した沖縄ジャズ界の重鎮）と共演したとき、屋良さんが『てぃんさぐぬ花』をとても美しいアレンジで弾かれたことにすごく感動して、『これこそが私たちウチナーンチュのスタンダードなんだ』って気付きました。それまではアメリカのスタンダードジャズばかり演奏してたけど、『沖縄にはこんなに美しい音楽があったんだ、私もやってみたい』と思った。そうしたら、小さい頃に聴いたわらべ歌や、故郷の勝連平敷屋で見たエイサーなど、沖縄での大切な思い出が一気に甦ってきて、曲のアレンジがどんどん生まれてきたんです」

それから西仲は東京を拠点に、沖縄の音楽をジャズフルートで演奏する活動に取り組んだが、コロナ禍による生活環境の変化もあり、2年前に沖縄にＵターン。帰沖前の2019年に起きた首里城火災、そしてコロナ禍で大打撃を受けた故郷のため、「何か自分にできることを」と考え、新作の制作を決意した。

録音に際しては、長年タッグを組む実力派ジャズピアニスト、竹内大輔を東京から招聘。エネルギッシュなスカのビートに心躍る「ヒヤミカチ節」、低音のアルトフルートの音色が小粋な「芭蕉布」、ラテンやスウィングのリズムがスリリングな「安里屋ユンタ」など、おなじみのナンバーを斬新なジャズアレンジで収録した。どの曲も原曲のメロディを大切に奏でる一方、間奏のアドリブではパッションあふれる独自のフレーズを次々と繰り出し、ジャズならではのアプローチで楽しませる。軽快かつ叙情的な竹内のピアノも、原曲の魅力を熟知したうえでの演奏であることが随所から伺え、沖縄に対する二人の敬意と愛情がにじむ作品となった。

さらに冒頭の「迎果報（んけぇーがふう）」と終盤の「赤田首里殿内（あかたすぅんどぅんち）」では、沖縄の伝統工芸・金細工（くがにぜーく）の名工で、首里の「金細工またよし」七代目である又吉健次郎が、金槌で銀を叩く音も重ねられた。彼女はその音に「どんな激動の時代も生き抜いてきた沖縄のパワー」を感じ、「今こそ、このエネルギーを共有したい」と願ったという。

「この先の未来にはぜひ幸せが訪れてほしい、そんな祈りを込めました。このアルバムが、沖縄はもちろん日本中の方に届いて、聴いた方を元気づけられたらいいなと思います」
（取材＆文・高橋久未子／撮影・喜瀬守昭）