琉球王朝時代の宮廷音楽である琉球古典音楽と、民衆の間で歌い継がれてきた沖縄民謡。その両ジャンルでトップクラスの実力を持ち、県内外でライブ活動や後進の育成に取り組む一方、オリジナルの島唄やポップス曲の創作、多種多様なアーティストとの共演や楽曲プロデュースなど、幅広いフィールドで活躍してきたよなは徹が、この正月、ニューアルバム『Roots～琉楽継承 其の四』を配信リリースした。

「琉楽継承」は、彼が自身のルーツである琉球古典音楽と沖縄民謡に向き合うべく、2016年から制作してきた作品集だ。2016年発表の第1弾と第2弾は琉球古典音楽、2022年発表の第3弾は沖縄民謡をメインに構成。そして本作では、琉球古典音楽から二揚（三線の中弦を一音上げた調弦）の独唱曲を10曲選び、歌三線と箏のシンプルな編成で収録した。いずれも歌詞は工工四（くんくんしー：三線用楽譜）の通りではなく、自分が歌いたいものを選んだという。徹は「歌詞を変えれば表現の仕方も変わってくる。そのぶん稽古せざるを得ないから、勉強になるんです」と笑った。

そもそも琉球古典音楽は、ゆったりしたテンポの三線に乗せ、歌詞を朗々と歌い上げるスタイルのため、ともすれば「眠くなる」とも言われがちだ。しかし、徹の歌はまったく逆。華やかさと気品を併せ持つ張りのある美声を、卓越した歌唱力と演奏力が支え、ゾクゾクするような緊張感の中、優美な音世界を鮮やかに描き出していく。その圧倒的なパフォーマンスは、この分野になじみの薄い人にも衝撃を与え、着々と「古典ファン」を増やしてきた。徹はその魅力をこう語る。

「琉球古典音楽は琉球王朝時代から続く芸能だから、歌うときに『この曲は首里城の中で、こんなふうに演奏されていたのかな』って想像すると、すごくワクワクするんです。かたや島唄は、生活の中で歌われてきたもの。『昔の宴会や祝いの席では、こうしてみんなで盛り上がりながら一緒に歌ってたんだろうな』ってイメージしながら歌うと、とても楽しい。どちらもいい曲がたくさんあって、年を重ねるにつれ、そういった『島で歌い継がれてきた曲』に、より多く向き合うようになりました」

一方で「そういう曲の『最高の一節』を表現するには、自分（の力量）はまだまだです」と、徹は表情を引き締める。

「特に琉球古典音楽は、ちゃんと稽古をしないと歌えない。僕はここ10年くらい、自分のライブでは（島唄だけでなく）必ず琉球古典音楽も歌っていますが、『ライブでいつでも歌える』状態に持っていくには、とにかく歌って弾きこなすしかないんです。いつか自分でも『今日の歌三線は最高だった』と思える一節に出合えるよう、これからも稽古を積んで、歌い続けたいと思っています」

そうして「琉楽継承」に取り組む傍ら、「いずれは自分のオリジナル曲だけの作品集も作りたい」と、先を見据えるよなは徹。今年はライブ活動にも力を入れるとのことなので、生の歌声もぜひ楽しみにしたい。（取材＆文・高橋久未子／撮影・大川直人）