沖縄の民謡界で1970年代から活動を始め、現在も現役で歌い続けるレジェンド、田場盛信。1975年に発表した「島の女（ひと）」の大ヒットで一躍名を馳せ、その後も「幸せ列島」「島情話」「泣かんきよー」など次々とヒットを飛ばし、民謡界の第一線で活躍してきた。

その彼が、百を超える過去音源の中からまだCD化されていないものを中心に32曲を選び、CD2枚に収めたアルバム『幸せ列島～田場盛信特集』をリリースした。ソロの他、金城恵子や山里ユキ、瀬良垣苗子、前川守賢、古謝美佐子らとのデュエット曲も収録。田場は「昔のレコードの曲はもうラジオでも流れないから、今回ＣＤにまとめられて嬉しい」と喜ぶ。

本作はオールタイムベスト的な構成で、「田場盛信の魅力が凝縮された作品」といえるが、その魅力の最たるものはやはり甘く優しさあふれる唄声、そしてその声のポテンシャルを最大限に引き出す「歌謡調」の楽曲といえるだろう。「歌謡調」とは、「本土の歌謡曲のような曲調」の新作民謡のことで、哀愁漂うメロディや情感に満ちた歌詞（ときに標準語も使われる）が特徴。田場はもともと登川誠仁や川田松夫に師事しており、伝統的な民謡も見事に歌いこなすが（本作でもそういった曲を多数収録しており、これまた聴き応え十分だ）、歌謡調も「民謡と同じくらい大好き」という。

「歌謡調の曲は自分に合っていると思うし、歌詞を見て『ここはこんなして歌ったほうがいいかね』とか、節回しを研究するのも楽しい。コンサートではお客さんが喜んでくれるから、昔の民謡だけでなく、歌謡調のヒット曲も必ず歌うようにしています」

そして、そんな田場のもう一つの魅力が「三板（さんば）」だ。巨匠・登川誠仁直伝という田場の三板は、エッジの立ったリズムと流麗な手さばきで見る人を圧倒するが、その「直伝」の背景にはとある事情があった。実は田場が登川に弟子入りした際、彼は多忙で唄三線の稽古をつける暇がなく、さらに専属の三板奏者が辞めてしまったため、田場は登川から「三板だけ」を徹底的に習い、一緒に舞台に立っていたのだ。

「自分は子どもの頃から太鼓とかの打楽器が好きだったので、三板を登川先生から直接習えたのはとても嬉しかったし、公演中は先生の唄三線を間近で見ることができて、すごく勉強になりました。三板は太鼓と違ってどこにでも持ち運べるし、舞台ではお客さんが集中して見てくれるので楽しい。公演に呼ばれたときはいつも『三板叩いて』って頼まれるので、常に持ち歩いてますよ（笑）」

今回のアルバムには田場の三板を全面フィーチャーした曲は収録されていないが、田場が理事を務める沖縄三板協会の動画や教則DVDなどでその華麗な演奏を鑑賞できるので、アルバムと併せてぜひチェックしていただければと思う。昭和から平成、令和と、本土復帰後の沖縄を歩んできたスターの歴史がここにある。（取材＆文・高橋久未子／撮影・金載弘）

※沖縄三板協会YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/watch?v=f_jgeEQZ6iM

※沖縄三板協会 三板・教則DVD通信販売
https://uchinasanba.localinfo.jp/pages/1638116/menu