戦後アメリカの統治下で発展し、本土復帰後も独自の進化を遂げてきた沖縄ジャズ。その黎明期に活動を始めた上は90代のレジェンド世代から、復帰後生まれの中堅・若手世代まで、現在沖縄で活躍するミュージシャン30名以上が参加し、録音したアルバム『ウチナー・ジャズ・ゴーズ・オン』が、2022年6月にリリースされた。

本作は、2008年に「沖縄ジャズ協会」名義で発表された『ウチナーJAZZ!』に続く、「地元ジャズメンによる、沖縄で受け継がれてきたビッグバンドサウンドを中心としたジャズアルバム」の第2弾だ。前作はレジェンド世代が中核を担っていたが、今作では前作にも参加した今年49歳のトロンボーン奏者、真栄里英樹（まえざと・えいき）がプロデュースを担当。自身の率いるビッグバンドを中心に、沖縄で活動するベテランカルテットや実力派プレイヤーを集め、沖縄をモチーフにしたオリジナル曲や沖縄曲のジャズアレンジ、ジャズのスタンダードなど計15曲を収録した。コロナ禍の中、打ち合わせや練習が思うように進まない苦労もあったというが、真栄里は「みんな前向きに参加してくれて、楽しいアルバムになりました」と笑う。

「メンバーは素晴らしいプレイヤーばかりだし、先輩方のユニット（※）にはそれぞれに長年培ってきた空気感もあるので、僕は細かいことはあれこれ言わず、全体を見ながら旗振り役を務めた感じですね。収録曲のうち、オリジナルは多くが今作のための書き下ろしです。僕や先輩ピアニストの津嘉山正明さんに加えて、日本を代表するトロンボーン奏者で沖縄ファンの村田陽一さんにも、沖縄をイメージした新曲『かりゆし』を書いていただきました」

※今回録音に参加したのは、92歳のフィリピン出身サックス奏者アラン・カヒーペを中心に、メンバー4人全員の合計年齢が324歳になる「JIJI324」、81歳のサックス奏者・テリー重田がリーダーを務める「テリー重田カルテット」、那覇市内の老舗ライブハウス「寓話」のオーナー・屋良朝秋が率いる「屋良朝秋 寓話カルテット」の3つ（いずれも年齢は録音時）。さらに真栄里英樹BIG BANDとの共演という形で、86歳の現役ドラマー・上原昌栄も参加している。

また、真栄里が編曲を手がけた沖縄のうた「月桃（げっとう）」では、曲の持つメッセージが伝わるようなアレンジを心がけたという。

「今回、ジャズボーカリストの安富祖貴子（あふそ・たかこ）さんに歌ってもらった『月桃』は、沖縄で慰霊の日（6/23）に歌われる平和への祈りを込めた曲ですが、原曲はわりとテンポが速めでサラッとしてるんです。でも貴子さんの暖かい声なら、もっとしっかり言葉が伝わるほうがいいと思って、少しスローなアレンジにしました。貴子さんも喜んでくれて、素晴らしい歌が録れました。こういう曲を入り口にして、聴いた方に沖縄のことをもっと知ってもらえたらいいな、とも思っています」

そういった沖縄曲はもとより、オリジナルやスタンダードも小難しさや堅苦しさはまったくなく、真栄里曰く「沖縄のジャズバンドならでは」のドライブ感にあふれた、前向きなサウンドやソロプレイが楽しめる。2022/7/30（土）には、沖縄市のミュージックタウン音市場にて、アルバム参加メンバーが出演する発売記念ライブも行われる予定だ。世代を超えて響き合う、ウチナージャズの多彩な魅力を味わいたい。（取材＆文・高橋久未子／撮影・喜瀬守昭）