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箆柄暦『五月の沖縄』2022 マルチーズロック

2022.04.28
  • インタビュー
箆柄暦『五月の沖縄』2022 マルチーズロック

《Piratsuka Special Interview》

マルチーズロック『人類観(じんるいかん)』
~ここに描かれた沖縄はフェイクではない~

島嶼県である沖縄に住む者にとって、新型コロナウイルスの猛威がもたらした閉塞感はただ事ではなかった。観光客の激減による経済的打撃に加え、文化的な交流も閉ざされ、ミュージシャンが沖縄から県外に出ることも、県外から沖縄に来ることもできなくなった。

そんな中、沖縄で活動するミクスチャーロックバンド・マルチーズロックが、コロナ禍を越えて新たな一歩を踏み出すべく、新作アルバム『人類観(じんるいかん)』をリリースする。

このバンドで、全曲の作詞作曲を手がける糸満盛仁(以下、もりと)は、那覇市の栄町市場で居酒屋「生活の柄(がら)」を営んでいる。もりとにとってそこは、人に出会い、ミュージシャンを受け入れ、自らも演奏し、音楽を生み出してきた大切な場所だ。コロナ禍以降、その世界は一変するが、もりとは途切れそうな音楽のサイクルをなんとか繋ぎながら、この場所を守り、曲を書き続けてきた。

そのもりとに、今回の新作リリースに至った経緯、新作に込めた思い、自身の歌やバンドサウンドの進化などを語ってもらった。(聞き手は箆柄暦 主宰・萩野一政)

●「もりとの鳴き方」ができるようになってきた

—ニューアルバム『人類観』リリースのきっかけは?

もりと 前作の『音舟』を出したのが2018年で、そこから時間が経って曲がたまってきたので、アルバム出したいなあという気持ちはあったわけさ。そんなところに、レーベルプロデューサーが「復帰50周年だし、アルバム出すか」って言ってきて、こっちは50周年という意識は元々ぜんぜんなかったんだけど、「でしょ、でしょ」ってのっかって(笑)、出すことになったわけ。

—今回のアルバムに収められた曲を聴くと、今の世の中とリンクした内容が多いように思えるんだよね。コロナ禍による閉塞感とか分断とか、辺野古の新基地建設問題をはじめとする沖縄に対する差別問題とか。ロシアによるウクライナ侵攻が起きたのはレコーディングの後だったけど、聴いた人には「あのことか?」と思えるような曲もあったり…。もりとの歌声も、そういう世の中に激しい憤りとか、疑問をぶつけているように聞こえたんだけど、これは意識的にテーマを決めて曲を書いたの?

もりと いや、アルバム作るときって、アルバム全体のテーマとかほとんど考えてないんだけど、できあがってみるとそう(=一貫性のある内容に)なってしまってる。なぜかって、それは俺が天才だからさ(笑)。まあ、そもそも曲を作ったり詞を書いたりしてるときの俺って、普段の俺とはまったく別人のような感じがしててさ。よく「曲や詞が降りてくる」とか言うけど、そういう感じでもなくて、バンッて弾けるような感じで書いてるから。それで曲は曲、詞は詞で書きためておいて、後で合体させる。曲に合わせて詞を書こうとすると、その曲の(制限の)中でしか詞ができないでしょ。言葉に制限かけたくないさ。1小節、2小節の単位で言葉を書いてたら、やっぱ面白くないなと。

—その作り方は、ミュージシャンというより「詩人」だね。

もりと はい、詩人です(笑)。ただ俺の場合、詞を書くだけじゃなくて歌も歌うわけじゃない。歌い手としては、今回のアルバムで、より自分の理想に近い歌い方ができた気がする。いつも「もりととして、どう鳴くのか」って考えてたんだけど、今回は完成形までいかないにしても、だいぶ自分の理想に近づいてきたな、と。前はただガナってればよかったけど、今回は曲によって、ちょっと抜けた歌い方をしてみたり。そういうのも含めて、「もりとの鳴き方」ができるようになってきたと思う。

—それは何か、変わるきっかけがあったの?

もりと 自分で変えようと思って変わったわけではないけど、徐々に「こういう歌い方もいいな」ってなってきた。50歳過ぎて、俺もようやく大人になったのかな(笑)。あと、ここ数年は(バンドではなく)一人でツアーに行く機会も増えたから、その影響もあるはず。ギター一本の弾き語りって、他に誰もいないし演出もないし、より深く自分の歌と向き合わないといけなくて、逃げ場がないさ。それが功を奏したのかもしれない。それと(音楽の現場で共演した)いろんな人達との出会いも大きいよね。遠藤ミチロウさん、ヨシキ(アルコドの永山愛樹)、タテタカコさん、夢野カブさん、あとジャンルは違うけど、スタンダップコメディのナオユキとか。みんな「その人しかできないステージ」をやってるから、そういうのを見ると「かっこいいな」って思いが80%、「チクショー」って嫉妬の気持ちが20%(笑)。「いいなあ、俺も負けないぜ」みたいな感じでやっていくうちに、少しずつ理想に近づいたのかもしれないね。

●アルバムは「映画のサントラ」のようなもの

—-マルチーズロックのライブを見てると、もりとの音楽的なひらめき、発想力もすごいと思うけど、それに応えて演奏するメンバーもすごいなと。

もりと そうだよね、メンバーの皆さんにはお世話になってます。特に今回は、前作『音舟』と同じメンバーで収録できたのが、とっても嬉しい。それまではアルバム出したあと、毎回誰かが辞めてたから(苦笑)。

—ここ数年で、マルチーズらしい音が固まってきた、と。

もりと そう。このメンバーじゃないと、今のマルチーズの音楽は表現できないよね。以前、ライブで他のバンドがマルチーズの曲を演奏してくれて、それで俺が歌ったことがあったわけさ。その演奏はとても上手だったんだけど、ノリがジャストで、「これはやっぱり違うな」と。マルチーズの音楽って、俺の歌とギターにみんなが合わせるから、独特のうねりがあるわけ。これはメンバーが誰か一人でも欠けたら成り立たないのよ。特に今回はアルバム自体の密度が高いというか、まとまり感がある感じがするな。サウンドもポップだし、今までにないニュアンスの曲も生まれたし。

—アルバムタイトル曲の「人類観」は、まあまあ重いテーマの曲だよね。これは「人類館事件」が前提にあるわけでしょ。

※人類館事件:1903(明治36)年に大阪で開かれた内国勧業博覧会において、「学術人類館」というパビリオンが設置され、アイヌ、沖縄、台湾、朝鮮、清国などの人々が「展示」されたことに、沖縄県と清国が「見世物」であると抗議し問題となった事件のこと。

もりと あの人類館は見世物小屋だったわけだけど、それって言い換えれば「人類観」さ。ものごとをどう見るか、その見方がおかしいから「人類館」という見世物小屋ができたんであって。

—もりとはその史実を踏まえたうえで、「人類観」ではいろんな人種や民族、属性の人々を花にたとえて、「どの花見てもきれいだな」と歌ってる。あと「おばあの子守唄」では、おばあが孫達に優しく語りかける形で「平和が続きますように」って歌ったり。さっき自分でも言ってたけど、しゃがれ声で力強くガナるだけじゃない歌い方が増えてて、表現の幅が広がった感じがする。音楽性の面でも、ロック、パンク、ロマ音楽、ちんどんと、これまでマルチーズがやってきたミクスチャーサウンドがさらに奔放に進化したように思うけど、もりと自身はそのあたり、どう感じてる?

もりと 自分では特に意識してなかったけど、前作を出した頃と比べると、マルチーズの音楽が「太くなった」感じはするかな。これはミチロウさんが(2019年に)亡くなるちょっと前に言ってたんだけど、「昔(パンクバンドの)ザ・スターリンをやってるときの自分は尖ってた。今も尖ってることに変わりはないけど、音楽全体が太く、大きくなっているから、一見しただけでは尖ってるようには見えない」って。俺も今回のアルバムに関しては、そんな感じがする。尖ってはいるんだけど、全体が太くなってるから(尖ってる)先端は見えなくて、柱のように見えるというか。昔は「方言や琉球音階は使いたくない」って思ってた時期もあったけど、最近はそういうのも全部取れてきて、自分の中で型がなくなってきてるんだよね。そうなると何でもありで、面白いさ。

—もっと自分の感じたとおりにやればいいんだ、みたいな。

もりと そうそう。「マルチーズがこんな曲やるの?」じゃなくて、どんな曲を作ってもいいし、歌ってもいい。そもそも俺はアルバムを作るとき、いつも「サントラにしたい」と思ってるわけ。映画のサントラ盤にはいろんなジャンルの音楽が収録されてるけど、それは1本の映画の中で流れる音楽だと思って聴けば、違和感ないでしょ。それと同じで、俺が歌えばストーリーが成り立つんだから、マルチーズはどんな曲をやってもいいわけよ。今回はそんな感じで、音楽の幅が広がって、バンドの音も太くなった気がするな。

—このアルバムを、どんなふうに聴いてもらいたいと思う?

もりと 最近はサブスクが一般的になってきて、みんな好きな曲だけ選んで1曲ずつ聴いたりするさ。俺も自分好みのプレイリストとか作ったりしてるから、人のことは言えないけど(笑)、でもこのアルバムは、少なくとも最初に聴くときは、1曲目から最後まで、通しで聴いてほしいな。さっき言ったとおり、これは1本の映画なんだから、途中から見たら面白くないからさ(笑)。

ともすれば「癒やし」が求められがちな沖縄の音楽。しかし沖縄は昔からずっと、時代の大きな波に揉まれ続けている。今の沖縄で、その姿を真っ向から描いているバンドがどのくらいいるだろうか。マルチーズロックは、確実にそんなバンドのひとつなのだ。もりとの思いが詰まったこの新作アルバムをぜひ、多くの人に聴いてもらいたいと思う。

(取材&文・萩野一政/撮影・金載弘)

マルチーズロック:表紙写真左から、もりと(vo/g)、ホールズ(g)、糸満あかね(sax/key)、竹内新悟(dr)、上地gacha一也(b)。1997年、作詞・作曲を手がけるもりとにより結成。沖縄県那覇市の栄町市場を拠点に活動。あらゆる音楽を貪欲に消化し、独自の世界観を体現しつつ、強烈な沖縄ルーツを感じさせる。パワフルなパフォーマンスは高い評価を集め、県外、国外での公演も多数。これまでの作品は、2002年『道しるべ』、2010年『ダウンタウンダンス』、2015年『ダウンタウンパレード』、2018年『音舟』など。

[CD Info]
マルチーズロック『人類観』
Music from Okinawa
MfO-016
3,000円(税込)
2022/5/15発売予定

1 2 3/オモテ・ナ・シ/野生のサウンドウェーブ/ヒーローズ/サビラーサビラー/おばぁの子守唄/同じ月/バルーン/スパイダーとオクトパス/ラブコール/人類観/ダンランラン/ダウンタウンダンス(2022)

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https://musicokinawa.official.ec/items/58587897