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箆柄暦『十一月・十二月の沖縄』2021 太田いずみ・與那覇桂子・與那覇有羽『ハララルデ~与那国のわらべうた~』

2021.11.09
  • インタビュー
箆柄暦『十一月・十二月の沖縄』2021 太田いずみ・與那覇桂子・與那覇有羽『ハララルデ~与那国のわらべうた~』

《Piratsuka Special Interview》

太田いずみ・與那覇桂子・與那覇有羽『ハララルデ~与那国のわらべうた~』
~与那国の言葉でつむぐ、珠玉のわらべうたと民謡~

日本最西端に位置する与那国島には、沖縄本島とも八重山諸島とも異なる、独自のうたが数多く存在している。2020年の秋、島の唄者・與那覇有羽が、与那国の伝承歌や民謡などを収録したアルバム『風の吹く島~どぅなん、与那国のうた~』を発売したが、同じレーベルから今度は、その姉妹盤ともいうべきアルバム『ハララルデ~与那国のわらべうた~』がリリースされた。

制作に携わったのは、有羽とその妻の桂子、そして有羽の実妹である太田いずみの三人。桂子といずみは、前作にも歌と箏で参加していたが、今回は二人がメインボーカルをとり、収録曲の多くをアカペラで歌った。さらに、いずみはアルバム全体のディレクションも担当。島のうた好きなお年寄りを訪ねたり、町の教育委員会に残る音源資料をあたったりしてわらべうたを採集し、その中からどれを収録するか、そしてそのうたをどのように歌うか、有羽や桂子とも相談しながら方針を固め、レコーディングに臨んだ。本作の制作を通じて、「自分たちも知らなかったうたがたくさんあったことに気づいた」と語るいずみに、制作の背景や苦労した点、アルバムに込めた思いなどを語ってもらった。

●難しかったのは「与那国語らしい発音で歌うこと」

—-まず最初に、本作の制作に至ったきっかけを教えてください。

いずみ 昨年(2020年)、兄の有羽がリスペクトレコードから与那国民謡のアルバムをリリースしたとき、私と桂子姉ちゃんがその中で「わらべうたメドレー」を歌ったんです。それを聴いたリスペクトレコードの高橋(研一)社長が、与那国のわらべうたに興味を持たれて、「次はわらべうたのアルバムを作りませんか」と声を掛けてくださいました。

—-高橋さんが、与那国のわらべうたに興味を持たれた理由は?

高橋 一番の理由は、歌詞の内容ですね。わらべうたというのは、本来は子どもの遊びのためのうたですが、与那国のわらべうたの歌詞には、かつて先島諸島に課せられていた人頭税(※注)のもとでの、過酷な生活が描写されているんです。税の支払いのために、朝から晩まで働きづめの両親の畑仕事がはかどるように、子ども達は「どうか雨だけは降らさないでね」と祈りを込めて歌う。私はその歌詞に心を動かされて、有羽くんといずみさんに「与那国にはどのくらいわらべうたがあるんですか」と尋ねました。そうしたら「30曲以上はあるんじゃないか」と言うので、「じゃあ、次はぜひそのわらべうたを録音しましょう」と提案しました。

※人頭税(にんとうぜい):個別の納税能力に関係なく、すべての人に一律で一定額を課す税金制度。先島諸島(宮古・八重山諸島)では17世紀から19世紀末まで、過酷な人頭税が課せられていた。

—-その提案を受けて、いずみさんはどう思われましたか?

いずみ 正直いえば「え、そんなCD、作っても聴いてくれる人いるの?」って思いました(笑)。私自身、今までわらべうたにはほとんど関心がなかったですから。(与那国のわらべうたの中では比較的ポピュラーな)「ハララルデ」や「ナガヤマ」、「ニチヌサンアイティ」くらいは聴いたことあるし、歌おうと思えば歌えるけど、それ以外は知ってるような、知らないような、あいまいな状態で。もともと、わらべうたをたくさん聴いて育ったてきたというわけでもないですし。でも高橋社長も、CDプロデューサーの小浜(司)さんも、「与那国のわらべうたは、他にはないうただよ」って仰るので、「そうなのか、じゃあやってみようか」と。

そんな状況で取りかかったので、最初は本当にわからないことだらけで。とにかく、まずは与那国にどのくらいの数のわらべうたがあるのか、そしてそれはどういう歌詞とメロディなのか、リストアップして調べるところから始めました。私自身は今、沖縄本島に住んでいるので、与那国に帰省するたび、島のうた好きな人を訪ねてうたを録音させてもらったり、話を聞いたりしました。与那国町の教育委員会にも、わらべうたを収録した昔の音源が残っていると聞いて、それを聴かせてもらったり。あと、本島在住で与那国出身の方の元にも伺って、いろいろとご指導を受けました。コロナ禍の中でしたが、お世話になった方は皆さんとても好意的で、うたを教えてくださるだけでなく、いろんな昔の思い出話などもしてくださって、とても楽しかったです。

ただ、そうやって集めた資料を聴いてみると、同じうたでも、歌い手によってちょっとしたところが異なっていて、それだけでぜんぜん違ううたに聞こえるんですね。それは(どれが正解ということではなく)「いろんな歌い方がある」ってことで、どれも面白いな、楽しいなと思うんですけど、録音する以上は、その中から「今回はどの歌い方でいくか」を選んで、決めなくちゃいけない。そう考えたとき、今回は主に私と桂子姉ちゃんが歌うんだから、メロディラインは私たち二人がきちんと覚えて歌えるもので、かつ与那国語の発音がしやすいもの、キー(音域)も二人が歌いやすい高さにして、聴いた人が「楽しそうに歌ってるね」「与那国らしいうただね」って感じてもらえるようにしよう、ということになりました。

—-「与那国らしい」というのは、具体的にどういったことでしょう?

いずみ 与那国語の歌詞をメロディに乗せて歌ったとき、与那国語の特徴をきちんと生かした発音で歌えているかどうか、ですね。実はそれが一番難しくて、苦労したところなんです。

いま三十代の私たち世代では、日常会話として与那国語を使うことはできません。もちろん私と有羽は与那国育ちで、家では父と祖父母の与那国語の会話を耳にしていたし、桂子姉ちゃんは本島出身だけど結婚後は与那国に住んで、地域の行事にもがっつり参加してるし、島の言葉はあるていど体に染みついてはいるんです。でも、祖父母が話していたような与那国語を聞いて、一から十まで意味を理解することはできないし、与那国語だけで会話をするのも難しい。そんな私たちが何も考えずに、ただ歌うだけでは「与那国らしいうた」にはならないんです。せっかくCDとして形に残すなら、与那国語の特徴である鼻濁音をきちんと意識して、できるだけ島の人に「与那国らしい」と感じてもらえる歌い方をしようと、三人で精一杯がんばりました。

—-下調べから録音まで、かなり綿密に作業されたんですね。こういった経験は初めてでしたか?

いずみ はい。そもそも、最初は有羽のところにディレクションの依頼が来てたんですが、メインボーカルは女声でいくと決まったところで、有羽が「実際に歌う人がディレクションするほうがいいし、あんた、やってみれば」と言ってきて、私が引き受けることになったんです。やるからには、後から「どうしてこういう歌い方にしたのか」とか、きちんと説明できるようにしないといけないと思って、最後の最後まで悩みつつも、できる限りのことはやろうと決めて取り組みました。

ただ、私はメロディや歌詞を整理したり、キーを決めたりするのはできるけど、「どういうテンポで、どんな感じの声で歌えば、その曲の良さが伝わるか」とか、「このうたはアカペラがいいのか、それとも三線や笛を入れたほうが引き立つか」とか、演出的なことを考えるのはあまり得意ではなくて。そういった部分は有羽や桂子姉ちゃんが主にアイディアを出してくれて、最終的には三人がそれぞれにできることを分担しながら完成させていった感じですね。

●何でもうまく歌えばいいってものでもない、と気づかされた

—-本作では、いずみさんと桂子さんが一緒にアカペラで歌っているうたも多いですね。

いずみ はい。私と桂子姉ちゃんは声色がぜんぜん違うから、最初は「音程をしっかり合わせないと」って、そのことをすごく気にしてたんです。もともと私は南風原高校の郷土芸能コースから沖縄県立芸術大学に進学して、県芸では琉球古典音楽の箏曲を学んでいたので、「人前でやる以上は、お手本どおりの技巧をきっちり身につけて、練習をみっちりこなしたうえで発表するのが当たり前」だと思っていたし、実際、そういうふうにしかやってきませんでした。だから、演奏したり歌ったりするときは「音程が合ってるかどうか」ばかり気になって、音楽を楽しむ前に(音程がズレてないか)あら探しをしちゃうタイプ(苦笑)。でも今回、わらべうたを歌ってみて、「何でもうまく歌えばいいってものでもないんだな」って気づかされました。

たとえば録音中、自分で「今、音程合ってなかったな」って違和感を感じた部分があったんですが、それを聴いてたみんなは「別におかしくないよ、いいんじゃない」って言ったんですね。それで「音程が合っているかどうかは、そこまで問題じゃないんだ。むしろちょっとした音の違いや声質の違いが、うたの味わいになることもあるんだな」って思ったんです。「もっと肩の力を抜いて歌っていいんだよ」とも何度も言われたし、音程を気にしながら緊張して歌うより、いい意味でラクに歌って、聴く人にも心地よく聴いてもらえたら、それが一番いいことなんだなと。桂子姉ちゃんとのアカペラも、無理に合わせようとしないことで、かえって音の広がりが出てきて、いい感じに聞こえてくるんです。ずっと古典の勉強ばかりしてきた私にとって、今回の録音はすごく貴重な経験になりました。

—-南風原高校の郷土芸能コースから県芸に進んだとのことですが、歌三線は島にいた頃から習ってたんですか?

いずみ 三線を始めたのは、小学校高学年くらいかな。有羽が弾いてるのを見て、私もやってみようかなと思ったのがきっかけです。ただ、唄三線や芸能自体はもっと小さい頃から、島の行事で日常的に接していました。島では暮らしの中に年中行事やお祭りが存在してるので、たとえば太鼓やドラの音が聞こえてきたら「そうか、今日は厄払いの行事がある日だな」って自然と気づく。与那国で育った人は、唄三線や伝統芸能に特に興味がなくても、みんなそんな感じだと思います。

—-中学卒業後、進学先に南風原高校の郷土芸能コースを選んだきっかけは?

いずみ 有羽がそこの卒業生だったので。与那国島は高校がないので、中学校を卒業したらみんな島外に出るんですが、私が進学先をどうしようか迷っていたら、有羽が「うちの高校、楽しかったから行ってみたら」って勧めてくれたんです。うちは有羽の上に兄と姉がいて、二人とも沖縄本島で暮らしてたんですが、南風原高校はその家からも通える距離だったので、じゃあ行ってみるかなと。

そのあと県芸に進んだのは、箏のことをもっとみっちり知りたいと思ったからです。芸能は好きだけど、自分が将来(プロとして)演奏活動をしたいのかどうかは、箏のことをちゃんと知ってからでないと決めきれないなと。それで大学に入って、4年間しっかり勉強しようと思いました。実際に入学してみたら、授業はかなりハードでしたね。そもそも普通の人が20年間お稽古に通って習うような内容を、4年間に凝縮して学ぶわけだから、当然なんですけど。ただ、それだけ学んで卒業しても、自分の進みたい方向性を見つけるのはなかなか難しくて…。今は子育て中というのもあって、表だって芸能活動はしていませんが、箏のお稽古はずっと続けています。

—-今回のCDは、お子さんも聴いていますか?

いずみ はい、車で移動するとき、私が完成前の音源を確認するためにいつも流していたので、強制的に(笑)。うちの子は6歳で、芸能はそれほど好きではないんですが、それでもずっと聴いてると覚えちゃうんですね。歌詞はあやふやながらも口ずさんでいたりして、嬉しいというより、びっくりしました。やっぱりわらべうたは子どもの耳でも覚えられるうたなんだな、そうやって歌い継がれて残ってきたんだろうな、と。わらべうたって、きっと作ろうと思って作ったわけじゃなくて、ちょっとした会話から生まれてきたんだろうな、とも思いました。

あと、CDのブックレットには、小浜さんが書いてくれた全曲の歌詞と対訳も載っているんですが、私自身は録音のとき、音楽的な面に気を配るのが精一杯で、歌詞の背景とかまできちんと考えるだけの余裕がなくて。完成したブックレットを見て、初めて「このうたにはこういう背景があったんだ」って知った曲もあって、興味深かったです。ただ、うたは誰が誰のために歌ったのかによって、そこに込められる意味合いも変わってくると思うんですよね。だからこのCDを聴いてくださる方には、まずブックレットを手に聴いてもらって、そこにまた自分自身の思いをのせて、うたを口ずさんでもらえたら嬉しいです。

●島を離れて暮らす与那国の人に、懐かしんで聴いてもらえたら

—-今回CDに収録されているわらべうたは24曲ですが、与那国には他にもまだわらべうたがあるんですか?

いずみ はい、私が調べた範囲では30曲近くありました。今回はその中から、音源が少なくて正確に再現できなかったり、録音までに覚えるのが難しかったりした曲を外して、私と桂子姉ちゃんがちゃんと歌える曲を24曲選んで録音しています。でも、さらに探したらもっとあると思うんです。だから与那国の方で、今回収録されていないわらべうたを知っている方がいたら、ぜひ教えていただきたいです。私自身、今回のアルバム制作がなかったら、わらべうたにはまったく関わりを持たずに過ごしていたと思いますが、今はわらべうたを知るのが楽しいなあと感じているので。ぜひ歌っていただいて録音するなり、譜面に起こすなりして、残しておきたいと思います。

—-CDにはわらべうたのほかに、ボーナストラックとして与那国の民謡や、豊年祭で歌われるうたなども6曲収録されていますね。

いずみ ボーナストラックを入れたのは、前回の有羽のCDを買ってくれた方からリクエストというか、「なんであの曲が入ってないの」っていう声をいただいたからです(笑)。特に多かったのが「でんさ節」ですね。この曲は与那国ではよく歌われるんですが、嬉しいときも悲しいときも、上手な人は即興で気持ちを乗せた歌詞を作って、会話するように歌うことができるんです。とても生活に寄り添った、生活に溶け込んだうたの一つで、与那国の人はとっても大好きなんですね。それで今回はぜひ入れよう、と。

「与那国十番口説」も、与那国のいいところを歌ったうたで、これもリクエストが多かった曲です。「すんかに」と「とぅばるま」は、歌い手によってけっこう節が変わったりするので、私が挑戦してみようと思いました。残りの2曲、「アガリナ・イリディナ」と「どぅんた」は、豊年祭のときに歌われるうたなんですが、笛のメロディと太鼓のリズムが与那国独特なんですよ。島出身で、いま島を離れて暮らしてる人がこの笛と太鼓を聴いたら、とっても懐かしがって絶対喜ぶだろうなと思ったので、これもぜひ入れたかった曲です。島を離れて暮らす中で、さみしい思いをしている人はいっぱいいると思うので。

私もいま沖縄本島に住んでいて、帰ろうと思えばすぐに帰れる距離だけど、それでも(島を思って)さみしくなることはあるんですよね。そういうときにこのCDを聴いて、与那国にいた頃の気持ちを思い出したり、歌詞に出てくる地名を聴いて「あそこだよな」って懐かしんでもらえたりしたらいいな、と思っています。そしてもちろん、与那国出身者以外のたくさんの方にも、このCDを聴いていただいて、与那国のうたの魅力を知ってもらえたら嬉しいです。

(取材・文:高橋久未子/撮影:喜瀬守昭)

太田いずみ(おおた・いずみ、写真中央):与那国島出身、沖縄本島在住。沖縄県立芸術大学(以下県芸)で琉球箏曲を学び、現在も研鑽に努める。

與那覇桂子(よなは・けいこ、写真左):中城村出身。母の影響で琉球舞踊を学び、県芸に進学。現在は与那国島を拠点に舞踊家、民具製作者として活動。

與那覇有羽(よなは・ゆうう、写真右):与那国島出身。県芸で琉球古典音楽を学ぶ。帰島後は民具店を営みつつ、島内外で演奏活動を行う。

[CD Info]
太田いずみ・與那覇桂子・與那覇有羽
『ハララルデ~与那国のわらべうた~』
リスペクトレコード
RES-337
3,080円(税込)
2021/11/3発売

ハララルデ(ハルラルデ)/アンダナビティ/ミトゥヌハチ(ディラブディ風)/ナガヤマ/カタブルハマ/イユヌミ/ドゥナンダギダッティ/数え唄/ツウンダミ/マトゥ/ウチヌハン/ミトゥヌハチ/カタミ/サンガチサニティ/ディククティ/マイナルハトゥティ/マンタブルダマミ/ダンナサン/ハナヌイシャドウ/アンガマ/ナガヤマタナガ/ニチヌサンアイティ[ボーナス・トラック]でんさ節/与那国十番口説/とぅばるま/アガリナ・イリディナ/すんかに/どぅんた

CDの詳細はこちらから
http://www.respect-record.co.jp/discs/res337.html

[Live Info]
◆コザ・宮古・与那国 魅惑の島唄 夢の共演

出演:與那覇有羽/與那覇桂子/太田いずみ 他(コザと宮古は後日発表)
日時:2022/3/13(日)16:00開場/17:00開演&配信開始
料金:一般前売3,500円・高校生以下前売1,000円(各当日500円増)、沖縄市民割引・障がい者割引2,000円、配信視聴料早割2,000円(1/1以降は2,500円)※いずれも会場は1ドリンク別途、12/1発売開始
場所・問合せ先:ミュージックタウン音市場 TEL.098-932-1949