箆柄暦『九月の沖縄』2012 下地勇
- 2012.09.10
- インタビュー

箆柄暦『九月の沖縄』2012
2012年8月31日発行/113号
《Piratsuka Special》
下地勇
《Piratsuka Topics》
きいやま商店『ドゥマンギテ』
神谷千尋『ウタ織イ』
堀内加奈子『KANASHI〜AQUA BLUE ISLAND』
世界エイサー大会2012
魂の音楽祭マブイオトvol.4
映画『ペンギン夫婦の作り方』
『魅惑の弦カル沖縄を唄う』
『丘の一本松/続・丘の一本松』
『オリオンビールCMソング大全集』
Piratsuka Special
下地勇
自分が歌いたい言葉で、心に響く歌を届けたい。
生まれ故郷・宮古島の方言で綴った歌詞を、ロック、ジャズ、ラテン、ブルースなど多彩なサウンドに乗せて歌う個性派シンガーソングライター、下地勇。二〇〇二年のデビュー以来、まるで外国語のような宮古方言の響きと、歌詞に込められた社会や人間への深いメッセージ、耳に残るキャッチーなメロディ、そして爽やかな中にも味のある歌声と力強いパフォーマンスで、沖縄県内はもちろん、県外や海外でも幅広く活躍を続けてきた。
デビュー十周年を迎えた今年は、二月にベスト盤『下地勇10周年ベスト“静”+“動”』を、八月にはセルフカバー盤『STOCKOUT』を発表。前者は全曲方言詞の作品集だが、最新作となる後者では“売り”としてきた方言詞は一切入れず、すべて標準語の曲で統一するという、ある意味思いきった決断をした。その理由を尋ねると、彼は「方言を使わなくても、“下地勇にしかできない音楽”は作れると気づいたから」と微笑んだ。
「これまでは“方言で歌うこと”が“自分にしかできない音楽”だと思い込んでいたんですよ。自分は標準語で曲を作るより、方言の可能性をもっと追求するべきだと、自分を枠にはめていた。でもこの十年、日々止まることなく創作活動を続けて、自分でも満足いく作品を作ってこれた中で、ようやく“本当に大事なのは方言で歌うことじゃない。自分が本当に歌いたいときに、歌いたい言葉で、歌いたいメロディで、歌を届けられているかどうかだ”と気づいたんです。
そもそも僕にとっては方言も標準語も、どちらも自分の中から自然に出てくる言葉。だったら“標準語で歌いたい”と思って作った曲も、方言詞と同じく“下地勇だけの音楽”だし、聴いた人の心に響かないはずがない。そう思えるようになりました」
その自信を裏付けるが如く、新作はシンガーソングライターとしての彼の力量がフルに発揮された、充実の内容となっている。宮古島の後輩シンガー・砂川恵理歌が歌って話題になった「一粒の種」など、他アーティストへの提供曲をはじめ、自身が過去にリリースした曲のセルフカバーや、書き下ろしの新作二曲も収録。アコースティック楽器のみを使ったシンプルなアレンジと標準語が、歌詞に込めた思いの深さとメロディの美しさを際立たせ、歌全体を力強く“響く”作品に仕上げている。ボーナストラックにはオリオンビールのCMソングなども詰め込んで、全十四曲の大盤振る舞いはまさに“STOCKOUT(お蔵出し)”。彼の十年間の一区切りであると同時に、次の十年への出発点でもある。
「最近までは、十周年で一区切りついたら少し休むつもりだったんです(笑)。でも今は休むより、また次の目標に向かいたいと思っている自分がいる。まずは十一月まで続く十周年記念ライブで、“今の下地勇の歌”をより多くの方に聞いてもらえたらと思います」
“ミャークフツシンガー”という枠を飛び越え、一アーティストとしてさらなる飛躍を目指す下地勇。彼の熱いパフォーマンスから、当分目が離せそうにない。
(取材&文・高橋久未子/撮影:喜瀬守昭)
下地勇(しもじ・いさむ) 1969年、宮古島久松生まれ。2002年にシングル「我達(ばんた)が生まり島」でCDデビュー。ソロのほかBEGINの島袋優とのユニット「シモブクレコード」、石垣島出身の民謡シンガー・新良幸人とのユニット「SAKISHIMA meeting」でも活動中。
◆下地勇『STOCKOUT』
インペリアルレコード TECI-1337
2,500円 8/22発売
home/AKICAN/一粒の種/HappyばがっふぁDay/ハル/ガレキに咲く花/帰り道/また夢でも見てみるか/その一歩/陽射しの中で/風の道 [ボーナストラック]制服/南の島で/希望を注げ