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箆柄暦『一月の沖縄』2021『沖縄ユーモアソング決定盤』

2021.01.01
  • インタビュー
箆柄暦『一月の沖縄』2021『沖縄ユーモアソング決定盤』

《Piratsuka Special Topics》

『沖縄ユーモアソング決定盤』
~今だからこそ聴きたい、笑顔になれる歌!~

●歌と踊り、そして笑いが戦後の沖縄を支えてきた

「沖縄民謡」という音楽に対して、皆さんはどんなイメージをお持ちだろうか。カチャーシー曲やエイサー節を思い浮かべて「明るい」「楽しい」と思う方もいるだろうし、しっとりした情け歌を思い返して「心打たれる」「切ない」と感じる方もいるだろう。それらはもちろん、どれも正しい。だが沖縄民謡にはもう一つ、見落としてはならない一面がある。それは「おもしろい歌」、つまり「笑い」のある歌だ。

本作『沖縄ユーモアソング決定盤』は、「笑い」をテーマに編まれた2枚組アルバムだ。プロデューサーの野原廣信(のはら・ひろのぶ、野村流古典音楽保存会伝承者・沖縄県指定無形文化財)は、前々から「最近ではあまり歌われなくなった、昔のおもしろい歌を掘り起こしたい」と考えていたという。

「戦後の苦しい時代、沖縄では素晴らしい唄者達がアイディアを出して、おもしろい歌を作っていたんです。その中から現代にも通じる歌を集めて、形にしたいと思いました。苦しいときほど笑顔を絶やさず、みんなで頑張ったからこそ、今日の沖縄があるわけですから」

野原が語るように、沖縄には戦後の復興期を歌と笑いで乗り超えてきた歴史がある。中でも有名なエピソードが、小那覇舞天(おなは・ぶーてん)と照屋林助(てるや・りんすけ)による「命ぬ祝事(ヌチヌスージ)」だろう。戦前から歯科医の傍ら漫談家として活躍し、「おもしろい歌を歌う人」として知られていた舞天は、終戦後に弟子の林助を連れて家々を回り、戦争で家族を亡くして悲しむ人々にこう語りかけた。

「命が助かった者がお祝いして元気を出さないと、亡くなった人達も浮かばれない。さあ、命のお祝いをしましょう」

そうして一緒に歌い踊るうち、人々は徐々に笑顔を取り戻していったという。沖縄の人々にとって、歌うこと、踊ること、そして笑うことは、困難な時代を生き抜くうえで欠かせない糧だったのである。

●コロナ禍の今こそ、世に出したいアルバム

本作では、その照屋林助の手になる楽曲も含め、沖縄民謡の中からユーモアあふれる歌を厳選し、2枚のCDに収めている。実は本作、企画自体は2019年から進んでいたが、2020年に入り「いざ録音」となったところで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、レコーディングが夏に延期となった。そのとき野原は「世の中がこんなに暗い今だからこそ、みんなが元気になれるアルバムを作って世に出したい」と、改めて強く思ったそうだ。

「歌詞の多くはウチナーグチ(沖縄言葉)だけど、対訳があれば本土の方でも意味はわかるでしょう。クスッと笑えたり、にやりとできる曲を聴いてもらって、沖縄だけでなく全国の人に少しでも笑顔が戻ればいいなあ、と」

その思いは、今回野原とともに選曲を手がけ、音楽監督として歌唱指導を担当したベテラン唄者、喜久山節子(きくやま・せつこ)にしても同様だ。民謡界のゴッドマザー・大城志津子(おおしろ・しずこ)の右腕として長年活躍し、現在は後進の育成に尽力する喜久山は、録音に参加した若手唄者に「歌詞のおもしろさが伝わる歌い方をしなさい」と、徹底的に教えたと語る。

「歌詞がおもしろい歌は、ただ歌詞を覚えて上手に歌うだけではダメ。いくらおもしろい本でも、棒読みしたらおもしろくないのと同じで、歌も言葉の意味をきちんと理解して、自分自身も楽しみながら、演じるようにイントネーションをつけてリアルに表現しないと、聴く人に伝わらないんですよ」

そのためには「方言の意味を肌で感じ取ること」が特に重要だと、喜久山は言う。
「沖縄の言葉は、意味の重みが日本語とはぜんぜん違うんです。言ってる人の思いが言葉に詰まってるから、日本語に置き換えて歌うことはできません。今の若い子達は方言がわからないから、さらっと流して歌いがちだけど、それでは歌の世界が見えてこないわけ。だから『歌詞の意味を理解して、その気持ちになって歌いなさい』って教えてるんです。

あと、言葉をはっきり歌うことも大事です。たとえ息が続いたとしても、適切なところで息継ぎしながら歌わないと、言葉の意味が違ってくることがあるし、区切って歌ったほうが意味も伝わりやすい。要は『この歌詞で何を言おうとしてるのか』をちゃんと考えながら歌ったら、歌はもっと生きてくるし、聴く側も、たとえ方言がわからなくても『おもしろいねえ』ってなるんですよ」

●コミカルでユーモラスな歌をたっぷり収録

そんな喜久山の指導を経てレコーディングに臨んだのは、大城の最後の直弟子である石川陽子(いしかわ・ようこ)、大城の直弟子であり喜久山からも指導を受ける長嶺(ながみね)ルーシー、喜久山の直弟子である山城香(やましろ・かおり)、巨匠・登川誠仁(のぼりかわ・せいじん)のもとで学んだ仲宗根創(なかそね・はじめ)、大御所・大城美佐子(おおしろ・みさこ)の愛弟子である堀内加奈子(ほりうち・かなこ)、そして琉球古典音楽で数々の受賞歴を持つ新垣恵(あらかき・めぐみ)の6名。

ここに野原と喜久山、喜久山の同門で同じくベテランの新城慎一(しんじょう・しんいち)、野原の息女で琉球古典音楽を学ぶ野原理恵(のはら・りえ)も加わり、それぞれの個性あふれる歌声で、男女のコミカルな(時にちょっとエッチな)掛け合いの歌や、風変わりなキャラクターが登場する歌、人生や恋愛でドジを踏む人の姿をユーモラスに描いた歌など、20曲以上を吹き込んだ。

うち8曲でメインボーカルを務めた仲宗根は、今回の録音を通じて「演じるように歌うことの大切さに、改めて気付いた」と振り返る。

「喜久山先生の指導を受けつつ、自分でも(参考にしようと)普久原朝喜(※)先生の歌劇の音源を聴いてみたんですが、やっぱりちゃんと歌で“演じて”いるのがわかるんですね。僕は今まで『キレイに歌おう』って意識が強かったのかなって気付きました。それよりももっとリアルに、舞台役者になったくらいのつもりで、芝居するように歌う気持ちを大事にしたいと思いました」

※普久原朝喜(ふくはら・ちょうき):戦前に大阪で沖縄民謡レーベル「丸福レコード」を創業。レコードプロデューサーとして、また新作民謡の作り手として、沖縄の音楽界に大きな影響を与えた。

なお、CD2枚目の最後には、沖縄芝居の喜劇「仲直り三良小(さんらーぐゎー)」も収録されている。この芝居を舞台で演じてきた赤嶺秀子琉舞研究所の生徒達が、離婚騒動に直面した親子のやりとりを歌で臨場感たっぷりに、おもしろおかしく再現しており、沖縄芝居独特の雰囲気も楽しめる1曲となっている。

●アメリカの県人会で生まれた新作「コロナ節」

さて、本作のもう一つの聴きどころが、2020年のコロナ禍を反映した新曲「ソーシャルディスタンス小唄」と「コロナ節」だ。前者は、認知症対策ソング「ボケない小唄」の歌詞をコロナ対策に置き換えたもので、「赤田首里殿内」のメロディに合わせ、堀内が伸びやかなボーカルで「三密を避けましょう」と呼びかけている。

そして仲宗根が歌っている「コロナ節」は、もともとはアメリカ・オハイオ州にある県人会「オハイオ沖縄友の会」のメンバーが、「デンサー節」のメロディに合わせて歌詞を創作したものだ。発案者の一人である里子・コートランドは、「自分たちの作った歌が、こうしてCDになるなんて夢にも思ってなかった。とっても嬉しい」と喜ぶ。

「私は沖縄でアメリカ人の夫と知り合って、結婚してアメリカに来てもう48年になりますが、沖縄のことは片時も忘れたことがないし、沖縄の民謡が大好きで、いつも民謡を聴いているんです。それで昨年春、コロナでステイホームになったとき、『こんな恐ろしい時代だからこそ、みんなが元気になれるような、勇気をもらえて癒されるような歌が作れたらいいな』と思って、県人会のお友達に呼び掛けたの。そうしたら節子・ランニングさんと、秀子・ムーアさんが(話に)乗ってくれたので、3人でウチナーグチで歌詞を書いて、それをシカゴ県人会で三線を教えてる米子・ケーブルさんに送って、アレンジしてもらいました。歌詞には『コロナに負けず、みんなで心をひとつに頑張ろう』というメッセージを込めています」

そうして米子が歌った「コロナ節」の動画は、シカゴ県人会のFacebookページにアップされた。里子はその動画を、沖縄に住む妹に紹介されて知り合った仲宗根に送り、「よかったら創さんも歌ってくれませんか」と相談。歌を聴いた仲宗根は「これは素晴らしい」と感動し、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組などで歌ったところ反響が広がり、今回のCD収録につながったという。仲宗根は「この歌を聴いて、ウチナーグチってすごいな、沖縄の歌っていいな、と再認識しました。言葉がシンプルな分、真心から作られていることが感じられる。この歌が(沖縄ではなく)アメリカで生まれたというのも、すごいことだと思います」と語った。

●コロナ節で、沖縄との距離が近くなった

また、里子は「このアルバムがきっかけで、アメリカの県人会でも沖縄の民謡に興味を持つ人が増えたんですよ」と笑う。

「CDを日本から取り寄せるとき、アメリカ各地の県人会に『興味ある方がいたら、まとめてオーダーしますよ』って声をかけたら、もう注文がどんどん来てね、最終的に135枚にもなって、私たちもびっくりしました。今まで民謡をあまり聴いてなかった人も、コロナ節が入ってるからって買ってくれて、聴いてみたらみんな『とっても良かった、本当におもしろいね』って喜んでくれて。中には『はっさもう、これを聴いてると沖縄に帰りたくなって涙が出るさ』って言う人もいてね、やっぱりみんな、故郷のことは忘れてないんですよ。

今は県人会の仲間ともなかなか会えないけど、『コロナが終息したらまた集まって、一緒にコロナ節を歌おうね』って約束してるんです。だからステイホームの間、みんな一生懸命に三線の練習してますよ(笑)。CDが届いてからは、創さんの歌を聴きながら練習できるから、とっても楽しいです。コロナ禍では大変な思いをしてるけど、コロナ節を作ったことでいろんな方々と縁がつながって、沖縄との距離もぐんと近くなったと感じられて、それは嬉しいことですね」

里子の言葉通り、本作に収められた24曲は、いずれも聴けば思わずくすり、にやり、にっこりと笑ってしまう歌ばかりだ。しかも近年の沖縄民謡集などにはあまり収録されていない、ライブでもなかなか聴けない曲が多々含まれており、沖縄民謡の新たな一面を再発見できる。

仲宗根は本作の魅力について、「歌がおもしろいのはもちろん、昔の沖縄の人の考え方や人柄、恋愛観なんかが見えてきて、時代がわかるというか、楽しみながらもすごく勉強になるアルバムだと思います」と語ってくれた。長引くコロナ禍の中、一人でも多くの方が、このアルバムで笑顔になれますように。
(取材&文:高橋久未子/撮影:喜瀬守昭)

『沖縄ユーモアソング決定盤』
リスペクトレコード
RES-330~331(2枚組)
3,200円(税別)
2020/11/25発売

※CD詳細はこちら(コロナ節/ソーシャルディスタンス小唄のミュージックビデオあり・全曲試聴可能)

[DISC1]祖慶漢那(仲宗根創)/恐るさ物や見い欲さ物(石川陽子)/オーライ節(長嶺ルーシー&新城慎一)/チョンチョンキジムナー(堀内加奈子&新垣恵)/なんちち節(新城慎一)/ハイカラ娘(新垣恵&仲宗根創)/ダイサナジャー(新城慎一&堀内加奈子)/かてーむん(仲宗根創)/ちり捨て節(新城慎一&山城香)/国頭大福(野原廣信・仲宗根創・喜久山節子・野原理恵)/新シミドゥスルヌガ(喜久山節子&石川陽子)/ボーナストラック:コロナ節(仲宗根創)

[DISC2]酒小飲み飲み(喜久山節子&山城香)/ソーキ骨不足(新城慎一&仲宗根創)/ソーシャルディスタンス小唄(堀内加奈子)/居しどぅかかゆる(喜久山節子&石川陽子)/ヒンスー尾類小(仲宗根創)/与那国ぬ猫小(長嶺ルーシー)/良い事や無えんがや(新垣恵)/ラッパ節(仲宗根創&山城香)/用事小(長嶺ルーシー)/ククラキ節(山城香)/夕車(石川陽子&堀内加奈子)/仲直り三良小(米嶋紗奈・大城黎旺・花木愛)

参加アーティスト:喜久山節子/野原廣信/新城慎一/仲宗根創/堀内加奈子/新垣恵/山城香/石川陽子/長嶺ルーシー/米嶋紗奈/大城黎旺/花木愛/野原理恵/大城みゆき/西俣尚子