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平和への思いを唄三線に託して…宜保和也『へその音(お)』スペシャルインタビュー

2019.11.28
  • インタビュー
平和への思いを唄三線に託して…宜保和也『へその音(お)』スペシャルインタビュー

石垣島に生まれ育って幼少から三線を習い、高校卒業後は沖縄県立芸術大学(以下、芸大)で琉球古典音楽を専攻。現在は沖縄本島を拠点に、琉球古典音楽の公演や沖縄民謡のステージ、三線を使ったオリジナル曲のライブなど、多方面で活躍する三線唄者の宜保和也が、3曲入りのニューシングル『へその音(お)』をリリースした。タイトル曲は2015年の慰霊の日に、那覇市で開かれた「平和の歌コンサート」で発表したもので、県内では沖縄電力のCMソングとしてもおなじみの1曲だ。わらべ歌のフレーズを取り入れたポップなサウンドにのせ、戦争を知る世代から教えられた平和の大切さを、未来の世代にも伝えていこうという思いを、伸びやかなボーカルで力強く歌い上げている。「自分だけでなく、いろいろな方の気持ちが入った曲なので、ぜひたくさんの方に聴いてもらえたら」という宜保に、これまでの活動歴も振り返りつつ、新作に対する思いを語ってもらった。

●エイサーに憧れて三線を弾き始めた

—-まずはじめに、これまでの活動歴について伺えればと思います。宜保さんは現在「三線唄者」として活動していますが、三線を手にしたきっかけは何でしたか?

宜保 最初のきっかけはエイサーですね。僕の地元は石垣島北部の明石(あかいし)というところなんですが、ここは石垣島の中でもちょっと特殊な場所で、昭和30年頃に沖縄本島から入植した開拓移民の人達が作った村なんです。だから旧盆の行事も、石垣市内で行われているアンガマではなくて、沖縄本島のエイサーなんですよね。入植者の出身地はバラバラなので、最初の頃はいろんな地域のエイサーが混ざってたようですが、そのうち「読谷村楚辺のエイサーが面白いから、それで統一しよう」となって、僕が生まれた頃には楚辺のエイサーで統一されてました。今の楚辺にも残っていない、昔の古典的なエイサーが見られるってことで、最近では石垣島でも有名になっています。

そんな環境で育ったので、僕はエイサーが大好きなんですよ。子どもの頃からずっと太鼓をやってたんですが、自然と地謡(じうてー:唄三線担当)に憧れるようになって、祖母が持ってた三線を使わせてもらって、独学でエイサー曲の練習を始めたのが最初です。今も毎年、お盆には明石に帰ってエイサーの地謡をやってます。

—-高校卒業後は沖縄県立芸術大学に進学して、本格的に三線を学んだそうですね。

宜保 実は最初は、福岡の音楽専門学校に進学しようと思ってたんです。高校時代はエイサーの地謡で三線もやりつつ、同級生とポップス系のバンドを組んで、ギターとボーカルをやってたので。バンドでは自分たちでオリジナル曲を書いて、地元のオーディションとか発表会とかに出てました。石垣島って、先輩達が作詞作曲の方法を教えてくれる伝統があって、みんな自然と曲作りができるようになるんですよ。僕らも何の抵抗もなく、オリジナル曲を作ってました。

それでそのバンドメンバーの中に、すごく三線の上手な子がいて、彼が芸大に進学するって聞いて、初めて「三線の大学があるんだ!」って知ったんです。当時はBEGINの島唄シリーズがヒットしてて、僕もそういう曲を演奏したりしてましたが、その一方で「ベーシックな三線をきちんと勉強したいなあ」という気持ちもあって、「三線の大学があるなら受けてみたい」と思いました。ただ、受験まであまり時間がなかったし、バイトもバンド活動もしてたので、とにかく試験曲の「かぎやで風」だけ、石垣にいる琉球古典音楽の先生にピンポイントで習ったんです。自分でも「こんな状態で芸大に入れるのかな、入っていいのかな」と思ったんですけど、なんとか合格したので、そのまま入学して。だから僕、「かぎやで風」しか弾けない状態で芸大に入ったんです(笑)。

●芸大で学びながらライブ活動をスタート

—-では、本格的な三線の勉強は芸大に入ってから始めたんですね。

宜保 はい、最初はすごく大変でした。他の人はみんなかなりの経験者なのに、僕だけ素人同然ですから。1~2年生のときは、授業についていけなくて「辞めようかな」と思った時期もありました。でも、石垣島の同級生だったバンド仲間や、他の友人達も支えてくれて、無事に卒業することができました。在学中は、授業ではがっつりと古典や地謡の勉強をして、放課後は仲間とバンド活動をしたり、民謡酒場やライブレストランで民謡や沖縄ポップスを演奏する仕事をしたりしていました。

—-それらの経験が、現在の音楽活動につながっていったのでしょうか。

宜保 そうですね。実は入学当初は、音楽の先生になろうと思ってたんです。親にも「教員免許は取っておきなさい」って釘を刺されてたし、卒業後は教師として働きながら、趣味で音楽を続けていこうと考えてました。ところが、僕が大学3~4年生の頃、那覇を中心に民謡酒場やライブレストランがすごく増えて、演奏の仕事が普通のバイトレベルじゃないくらい、たくさんあったんです。それで「卒業後もこのまま行けるんじゃないか?」と思っちゃって(笑)、就職活動もせず、教員免許も取ったけど採用試験は受けず、この道に入りました。

ただ、当時は今のようにソロで歌ってたわけではなくて、他の唄者のサポートギターが中心でした。「民謡がわかるギタリスト」ってことで、あちこちから声をかけていただいたり、自分でも他の唄者とユニットを組んで、演奏活動をしていたんです。沖縄ポップスや民謡のオリジナル曲もけっこう作ってて、自分たちの持ち歌として演奏したり、他の方に提供したりしてました。

それが26~7歳の頃、当時メインでやってたユニットのボーカリストが結婚・出産で活動休止することになって、さて、どうしよう?と。そのとき、周囲に「ソロでやったらどう?」って勧められて、そこから本格的にソロ活動を始めました。ソロになってからは、県内外でのライブだけでなく、ニューヨークの「Blue Note」でワンマンライブをしたり、世界的オーディション番組「X FACTOR」の日本版「X FACTOR OKINAWA JAPAN」で準優勝したりと、いろいろな経験もさせてもらって、活動の幅が広がっていきました。

●平和への思いを込めた「へその音(お)」

—-今回のニューシングル『へその音(お)』は、通算5枚目のCDになりますね。この曲はどのようにして生まれたのでしょうか。

宜保 「へその音(お)」は、2015年の慰霊の日(6月23日)に、那覇市ぶんかテンブス館(以下、てんぶす那覇)の主催で行われた「平和の歌コンサート」で発表するために作った曲です。全国の小中学生や一般の方から、「平和」をテーマにした作文やメッセージを公募して、それを僕が歌詞にまとめて、曲をつけました。コンサートの後にレコーディングした音源が、2016年から沖縄電力のCMソングとしてオンエアされていますが、今回はカップリングのオリジナル2曲も併せて新たにレコーディングして、3曲入りのCDとしてリリースしました。

この「へその音(お)」という曲は僕自身、とても思い入れがあって。というのもこの曲は、自分一人で作ったものではなくて、子ども達をはじめいろんな方が書いた言葉を使っているので、歌詞の中にはその方達の「平和」に対する気持ちが入っているんですよね。だからある意味、僕の中で責任感というか使命感というか、「この曲にはたくさんの方の思いが込められているのだから、きちんと世の中に出して、多くの方に聞いてもらわなくては」と思っていました。曲作りのときも、てんぶす那覇の担当の方とは熱く議論を繰り返して、ときには言い合いになったこともありましたが、今考えればそれがすごく良かったと感じていて。今回、こうしてCDとしてリリースできて、とても嬉しいです。

—-カップリングの「桜美童」と「ハルの島唄」は、宜保さんのオリジナルですね。

宜保 はい。この2曲は最近のオリジナルの中でも、特にファンの方から人気の曲なので、ぜひ聴いてもらいたいなあと思って入れました。どちらも“ザ・宜保和也”な感じの沖縄ポップスで、「桜美童」はウチナーグチの歌詞にロック色強めのアレンジ、「ハルの島唄」は標準語のスローナンバーです。ただ、どちらも春の歌なので、時期的にはちょっと合わないんですけど(笑)。

●オリジナルを通じて民謡や古典の魅力を伝えたい

—-宜保さんがオリジナル曲を作るときに、何か意識していることはありますか?

宜保 僕が沖縄ポップスのオリジナル曲を作るときは、いつも「僕と同世代や僕より若いウチナーンチュの人達、そして沖縄県外の人達に、沖縄民謡や琉球古典音楽の面白さを知ってもらうきっかけになったらいいな」と思っています。

沖縄民謡についていえば、僕は(ベテラン民謡歌手の)我如古より子さんと一緒にステージに立つ機会が多いんですが、やっぱりより子さんの唄には深みがあって三線も上手だし、唄と三線のコンビネーションとか、節回しとかも絶妙なんですよね。そういうのは何十年もやらないとできないと思いますが、だからこそ自分でもできた!と思えたときには嬉しいし、気持ちいいんです。

一方で、琉球古典音楽は長い曲が多いうえ、曲調もゆっくりで、民謡以上にハードルが高いと思ってて。歌う方としても、30分もあるお経のような曲とかだと、最初はけっこうしんどいんです。ただ、そういう曲も20分くらい歌ってると、だんだん気持ちよくなってくるんですよね(笑)。

民謡にしろ古典にしろ、最終的にはそういう深い部分の面白さを知ってもらえたらと思っていますが、いきなりそこに到達するのは難しいので、まずは最初の導入というか、民謡や古典に触れるきっかけとして、キャッチーな沖縄ポップスで、沖縄の音楽に興味を持ってもらえたらと思っています。ただ僕の場合、曲の中にわらべ歌や古典のフレーズを取り入れたりしているので、そこは普通の沖縄ポップスと、宜保和也の曲の違うところかなと。だから僕のワンマンライブでは、沖縄ポップスも民謡も古典も、全部やるんですよ。特に古典コーナーは必ず入れてます。

—-琉球古典音楽や組踊などの伝統芸能公演にも、定期的に参加しているそうですね。

宜保 はい、2~3か月に一度は出ています。古典には古典の筋肉みたいなものがあって、やらないと喉がなまっちゃうんですよ。しばらく古典から離れてて久しぶりに歌うと、先生からも「歌い方がおかしくなってる」ってチェックが入るし(笑)。古典は特に歌が重要で、節回しも細かいし難しいんですが、それをやることで喉のトレーニングができて、民謡やポップスを歌うときにもいい影響があると感じています。いわばストレッチみたいなものですね。

—-12月13日(金)には、「へその音(お)」が生まれたてんぶす那覇で、CDのリリース記念ライブがありますね。

宜保 はい。今回はスペシャルゲストに宮沢和史さん(ex.THE BOOM)と我如古より子さんをお招きして、「平和」をテーマにいろいろな歌をお届けしたいと思っています。沖縄戦を歌った宮沢さんの「島唄」もじっくり聴いてもらいたいですし、より子さんは島唄にポップス的な要素を取り入れ始めた最初の世代の方なので、その歌もぜひ楽しんでもらいたい。そして何より、「へその音(お)」に込められたたくさんの方の平和への思いを、ステージからしっかりと伝えられたらと思っています。CDのレコーディングメンバーも東京から駆けつけてくれますし、僕自身もとても楽しみにしています。あと、12月8日(日)には熊本でもリリース記念ライブがありますので、お近くの方はぜひ足を運んでいただけたら嬉しいです。お待ちしています!

【CDの情報・試聴・購入はこちらから】
CD http://gibokazuya.com/cd/
ダウンロード http://gibokazuya.com/download/

◆宜保和也『へその音』CD発売記念LIVE
http://gibokazuya.com/

◎熊本
出演:宜保和也/片山義美(g)/乾隆(オープニングアクト)他
日時:2019/12/8(日)18:00開場/19:00開演
場所・問合せ:SlowHand TEL.096-359-4155 slowhand0716@gmail.com
料金:前売2,500円/当日3,000円 ※1ドリンク別途

◎那覇
出演:宜保和也/宮沢和史/我如古より子/島唄少女テン/片山タカズミ(dr)/神崎峻(b)/片山義美(g)/大城健大郎 他
日時:2019/12/13(金)18:00開場/18:30開演
場所:てんぶす那覇テンブスホール(国際通り)
料金:前売一般3,000円/中高生2,000円/小学生1,000円(当日各500円増) ※未就学児膝上無料
問合せ:民謡ステージ歌姫 TEL.098-863-2425 hime.company1@gmail.com